資産形成
相続税対策の本質|会社員が今から備える資産防衛の仕組み
「相続なんて、まだ先の話だろう」——そう思っている30〜40代のハイキャリア層ほど、実は危ない。2015年の基礎控除引き下げ以降、相続税の課税対象者は倍増している。都心にマンションを持ち、退職金と金融資産を合わせれば1億円前後になる世帯は珍しくない。つまり「うちは関係ない」と思っていた層が、いま最もリスクにさらされている。本記事では、会社員の「信用力」という見落とされがちな武器を軸に、相続税リスクを構造的に減らす方法を掘り下げていく。

01課税対象者は10年で倍増——「うちは大丈夫」が最大のリスク
相続税の課税割合は2014年の4.4%から、2022年には9.6%へと急上昇した。
国税庁「令和4年分 相続税の申告事績の概要」によると、2022年の被相続人数(死亡者数)約156万人のうち、相続税の課税対象となったのは約15万人。10人に1人が課税される時代に突入している。
背景にあるのが、2015年1月の基礎控除改正だ。
| 項目 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 基礎控除 | 5,000万円+1,000万円×法定相続人数 | 3,000万円+600万円×法定相続人数 |
| 配偶者+子2人の場合 | 8,000万円 | 4,800万円 |
| 課税割合(全国) | 約4.4% | 約9.6% |
配偶者と子2人の標準的な家族構成で、非課税ラインが8,000万円から4,800万円へと4割も下がった。都心に自宅を持ち、退職金と預金、生命保険を合わせれば5,000万円を超える世帯は多い。
ここで注目したいのが、東京都の課税割合だ。全国平均9.6%に対し、東京都は16.3%(国税庁同統計)。6人に1人が相続税を払っている計算になる。港区や渋谷区に自宅を持つだけで、土地評価額が跳ね上がる。
「資産家でもないのに相続税?」という驚きは、もはや珍しくない。

02「相続税2,160万円」のリアルな計算
では、具体的にどの程度の負担になるのか。四季報オンラインが取り上げた「相続税2,160万円」というケースを、構造的に分解してみよう。
上記は比較的シンプルなケースだ。しかし相続財産が1億5,000万円を超えると、税率は30〜40%ゾーンに入り、負担額は2,000万円を超えてくる。
年収1,500万円の会社員が30年勤続した場合、退職金2,000万円+金融資産3,000万円+自宅評価額6,000万円+生命保険1,500万円で、合計1億2,500万円程度になることは十分ありえる。
問題は、この資産の多くが「不動産」と「退職金」という流動性の低い形で存在すること。相続税の納付期限は被相続人の死亡を知った日の翌日から10カ月。現金が足りなければ、不動産を急いで売却するか、延納・物納を検討するしかない。
急ぎの売却は、市場価格より10〜20%安くなるのが通例だ。

03会社員だけが使える「与信」という構造的優位
ここから本題に入る。相続税対策は「節税テクニック」の話だと思われがちだが、本質は資産の組み替えにある。そして資産の組み替えにおいて、会社員には他にはない強力な武器がある。
それが「与信力」だ。
金融機関が融資審査で最も重視するのは、収入の安定性と継続性。年収1,000万円超の上場企業勤務であれば、1億円前後の融資枠を持てることも珍しくない。一方、同じ年収のフリーランスや経営者は、収入の変動リスクから融資条件が厳しくなる。
日本銀行「貸出先別貸出金統計」(2024年3月)によれば、個人向け住宅ローンの残高は約206兆円。低金利環境の中、給与所得者への融資は依然として銀行の主力商品であり、審査通過率も高い水準を維持している。
この与信力を「自宅購入」だけに使うのは、実はもったいない。

04不動産を活用した相続税対策の構造
不動産が相続税対策になる理由は明快だ。現金と不動産では、相続税の評価額が大きく異なる。
現金1億円は、そのまま1億円として評価される。しかし不動産は「路線価」(時価の約80%)で評価され、賃貸に出していればさらに「貸家建付地」の評価減が適用される。
ただし、2022年の最高裁判決や2024年の評価通達改正により、評価額と時価の乖離が著しい場合は税務当局が否認できるという判例が確立された。「節税ありき」の購入は通用しなくなっている。
重要なのは、事業性と実需を伴った不動産取得であること。つまり「住む」か「貸す」か、実態のある運用をしていることが前提になる。
ここに会社員の与信力が活きる。安定収入を背景に低金利で融資を引き、賃料収入でローンを返済しながら、相続時には評価圧縮のメリットを得る。これは投機ではなく、バランスシートの構造設計だ。

05年収1,400万円・42歳商社マンのケース
具体的な事例を見てみよう。
Aさん(42歳)は大手総合商社勤務、年収1,400万円。妻と子ども2人の4人家族で、都内に7,000万円のマンション(残ローン4,500万円)を保有している。金融資産は約2,500万円。両親は70代で、実家(評価額3,500万円)と金融資産5,000万円がある。
父親が亡くなった場合の想定相続財産は、実家3,500万円+金融資産5,000万円=8,500万円。基礎控除は4,800万円(母+子2人)なので、課税遺産総額は3,700万円。税額は約410万円となる。
「410万円なら払える」と思うかもしれない。しかし問題は、その後の二次相続だ。
母親が父の財産を相続し、その後母親が亡くなった場合、配偶者の税額軽減は使えない。母親固有の資産も加わり、課税遺産総額は跳ね上がる。二次相続で1,000万円超の税負担が発生するケースは多い。
Aさんは、以下のステップで対策を始めた。
ポイントは、3番目の「不動産取得」がAさん本人の資産形成と親の相続税対策を同時に実現している点だ。親からの生前贈与資金を頭金に充てることで親の相続財産を減らしつつ、Aさんの与信力で取得した不動産は、将来Aさん自身の相続時にも評価圧縮の効果がある。つまり2世代分の相続税対策を同時に設計している。
※税務判断は個別事情により異なるため、必ず税理士にご確認ください。
06生前贈与と保険——見落とされがちな「現金の出口設計」
不動産だけが対策ではない。むしろ、現金の「出口設計」を怠ると効果は半減する。
2024年以降、暦年贈与の加算期間が相続開始前3年から7年に延長された(令和5年度税制改正)。これは「駆け込み贈与」を封じる改正だが、裏を返せば早く始めるほど有利ということでもある。
例えば42歳から年110万円の贈与を始めれば、20年で2,200万円を非課税で移転できる。相続時の税率が30%なら、660万円の節税効果だ。複雑なスキームではなく、ただ「早く始める」だけで効果が出る。
もう一つ見落としがちなのが、生命保険の非課税枠。
死亡保険金は「500万円×法定相続人数」が非課税となる。配偶者+子2人なら1,500万円。この枠を使い切っていない人は多い。総務省「家計調査」(2023年)によると、生命保険の世帯加入率は約80%だが、非課税枠を意識して設計している世帯はごく少数とされる。
保険の見直しは、新たな資金を必要としない場合も多い。既存の保険の受取人変更や、掛け捨てから終身への切り替えで対応できることもある。
- ✓暦年贈与(年110万円)を開始した
- 相続時精算課税制度(2,500万円特別控除)の適用を検討した
- 生命保険の非課税枠(500万円×法定相続人数)を活用した
- 教育資金一括贈与の特例を検討した
- 小規模宅地等の特例の適用要件を確認した
07「仕組み化」こそ多忙な会社員の最適解
ここまで読んで「やるべきことが多すぎる」と感じた人もいるだろう。
しかし、相続税対策の本質は「一度設計して、あとは自動で回す」仕組みをつくることにある。これは、多忙なハイキャリア層にとってむしろ相性がいい。
毎月の贈与は銀行の自動振込で設定できる。不動産の管理は管理会社に委託すれば、オーナーが日常的に動く必要はない。保険の見直しも年1回で十分。税理士との面談も年1回、確定申告のタイミングで行えば効率的だ。
国税庁「令和4年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について」によれば、不動産所得の申告者数は約332万人。会社員でありながら不動産所得を申告している層は着実に増えている。
重要なのは、完璧な対策を一度に仕上げようとしないこと。まずは現状把握と贈与の開始。不動産の取得はその後でいい。ステップを分けて、1年ずつ進めていく。
長期投資と同じで、相続税対策も「時間を味方につける」ゲームだ。
08まとめ——今日できる最初の一歩
- —相続税の課税対象者は10年で倍増。都心に自宅を持つ年収1,000万円超の会社員は、リスクゾーンに入る可能性が極めて高い
- —会社員の与信力は、資産の組み替えにおいて構造的な優位性。この武器を自宅購入だけに使うのはもったいない
- —不動産の評価圧縮効果は3,000万円〜4,000万円。ただし「節税ありき」は最高裁判例で否認リスクがある
- —生前贈与と保険の非課税枠は「早く始めるだけ」で効果が出る。複雑な仕組みは不要
- —年1回のレビューで仕組みを回す。完璧を目指さず、まず始めること
最初のアクションは、親の資産状況をヒアリングすること。気まずい会話かもしれないが、家族の資産を守るための第一歩だ。
TEKOでは、不動産を活用した資産形成の具体的な設計事例を公式LINEで配信しています。シミュレーションツールも用意しているので、まずは自分の数字を入れてみてください。
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