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株の確定申告で社会保険料が増える?節税の判断基準と対策
「配当控除で税金を取り戻せる」——そう聞いて確定申告したら、翌年の国民健康保険料が20万円以上跳ね上がった。
これは実際にFIRE達成後の元コンサル勤務・42歳男性が経験した話だ。特定口座(源泉徴収あり)で完結していた株の利益を、わざわざ確定申告に載せた結果、所得税の還付額を国保料の増加が大きく上回ってしまった。
所得税だけを見れば確かにお得。しかし社会保険料まで含めた「手取りベース」で考えると、確定申告が裏目に出るケースは少なくない。
本記事では、確定申告すべきかどうかの損益分岐点を具体的な数値で示し、FIRE後や退職後に使える実践的な対策までカバーする。

01まず押さえたい「特定口座」の仕組みと申告の選択肢
特定口座(源泉徴収あり)を使っていれば、株の売却益・配当には自動的に20.315%(所得税15.315%+住民税5%)が天引きされる。この時点で納税は完了しており、確定申告は不要だ。
ここがポイントになる。「申告不要」を選べば、株の利益は国民健康保険料の算定基礎に含まれない。つまり、どれだけ株で儲けても国保料には影響しない。
一方、確定申告をすると話が変わる。申告した株式所得は「合計所得金額」に算入され、国保料・介護保険料・後期高齢者医療保険料の計算に跳ね返る。
では、なぜあえて確定申告する人がいるのか。主に3つの理由がある。
- 配当控除を使って所得税・住民税を減らしたい
- 損益通算で売却損と配当・利益を相殺したい(複数口座がある場合)
- 繰越控除で過去3年の損失を今年の利益から差し引きたい
いずれも所得税の世界では合理的な選択だ。問題は、この「合理的な選択」が社会保険料という別のルールで裏目に出ることにある。
02確定申告で国保料はいくら上がるのか
結論から言うと、株式所得200万円を申告した場合、自治体によって15万〜25万円の国保料増加が発生する。
国民健康保険料は自治体ごとに料率が異なるが、所得割の料率は概ね7〜12%だ。厚生労働省の「国民健康保険事業年報」(令和5年度)によると、全国平均の所得割料率は医療分・支援金分・介護分を合わせて約11.5%になる。

具体的にシミュレーションしてみよう。
このシミュレーションで見えてくるのは、「得をする幅が極めて小さい」という現実だ。わずか2.6万円の差なら、申告の手間やミスのリスクを考えると割に合わない人も多い。
さらに課税所得が900万円を超えると所得税率が33%に上がり、配当控除のメリットがほぼ消える。加えて、課税総所得金額等が1,000万円を超える部分は配当控除率が5%に下がるため、申告するほど損になる。
| 課税所得 | 所得税率 | 配当控除率 | 申告の有利不利 |
|---|---|---|---|
| 330万円以下 | 10% | 10% | 有利(ただし国保料に注意) |
| 330万〜695万円 | 20% | 10% | ケースバイケース |
| 695万〜900万円 | 23% | 10% | 不利になりやすい |
| 900万〜1,000万円 | 33% | 10% | 非常に不利 |
| 1,000万円超 | 33%〜 | 5% | 申告は非推奨 |
現役のハイキャリア会社員であれば、課税所得695万円超のケースが多いだろう。その場合、配当控除目的の確定申告はほぼメリットがない。
032024年度税制改正で変わった「住民税の申告不要制度」廃止の影響
見落としがちな制度変更がある。2024年度分(令和6年分)の確定申告から、所得税と住民税で異なる課税方式を選ぶことができなくなった。

以前は「所得税は総合課税で申告して配当控除を受け、住民税は申告不要にして国保料への影響を回避する」という使い分けができた。いわゆる「住民税申告不要制度」だ。
この使い分けが2024年度分から封じられている。所得税で確定申告した内容は、自動的に住民税にも反映される。つまり、確定申告=国保料に影響が出る、という構図が確定した。
総務省の「令和6年度税制改正の解説」でも明記されている通り、この改正の意図は「課税の公平性の確保」にある。裏を返せば、これまでの使い分けが「制度の抜け穴」として認識されていたということだ。
この改正により、確定申告の判断はよりシンプルになった。「申告して得するかどうか」を、所得税+住民税+社会保険料のトータルで判断するしかない。
04確定申告すべきか?5ステップの判断フロー
確定申告の要否を判断するための実践的なフローを整理した。

注意点として、会社員で健康保険(協会けんぽ・組合健保)に加入している場合、株の確定申告は保険料に影響しない。健康保険料は標準報酬月額で決まるため、株式所得は計算に入らないからだ。
影響が出るのは国民健康保険の加入者、つまりFIRE達成者・退職者・自営業者・年金生活者だ。
05ケーススタディ:FIRE後に「申告しすぎた」38歳元外資金融マン

具体的な事例で見てみよう。Aさん(38歳・元外資金融機関勤務)は2024年にFIREを達成。退職後は国民健康保険に加入し、年間配当収入約400万円と譲渡益約300万円で生活している。
FIRE1年目、Aさんは「配当控除で税金を取り戻そう」と考え、全額を確定申告した。
結果はこうなった。
52万円の損失。これは笑えない金額だ。
Aさんの失敗は「所得税しか見ていなかった」ことに尽きる。税理士に相談していれば防げた事態だが、FIRE後は顧問税理士を持たない人も多い。
翌年からAさんは、損益通算が必要な年だけ確定申告する方針に切り替えた。さらに、配当を出さないインデックスファンド(配当再投資型)の比率を高め、そもそも申告判断が不要な資産構成へとシフトしている。
06FIRE後の資産構成で「申告が必要ない設計」をつくる
確定申告の損得を毎年計算するのは面倒だ。もっと根本的な解決策がある。

そもそも確定申告が不要な資産構成にしておけばいい。FIRE後の生活費を賄う資産を「申告不要で完結する形」にデザインするという発想だ。
具体的には以下のチェックリストが参考になる。
- ✓特定口座(源泉徴収あり)を使っている
- 高配当株より配当再投資型のインデックスファンドに寄せている
- 複数の証券口座を1つに集約し、口座間の損益通算を不要にしている
- 生活費は「定期売却サービス」で取り崩し、配当に依存しない設計にしている
- 新NISAの非課税枠(1,800万円)を最大限活用している
特に新NISAの活用は重要だ。金融庁の発表によると、2024年1月の新NISA開始から半年で、NISA口座数は約2,322万口座に達している。非課税枠1,800万円をフル活用すれば、年利5%で運用した場合の年間リターン90万円が完全非課税になる。
当然、国保料にも一切影響しない。
配当控除に固執するより、非課税の枠を使い切るほうがはるかに効果が大きい。制度の「部分最適」ではなく「全体最適」を設計するという視点が、ハイキャリア層にはしっくりくるはずだ。
07退職のタイミングと「任意継続」の判断
FIRE・早期退職を考えている人にもう一つ押さえてほしいのが、健康保険の任意継続制度だ。

退職後2年間は、元の会社の健康保険に「任意継続」で加入できる。任意継続の保険料は退職時の標準報酬月額で固定され、株式所得は一切影響しない。
つまり、退職後2年間は株の確定申告を自由にできる「猶予期間」になる。この間に損益通算や繰越控除を済ませておくのが賢い動きだ。
ただし注意点がある。任意継続の保険料は全額自己負担(在職時は会社と折半)になるため、月額が跳ね上がるケースもある。
協会けんぽの場合、2024年度の任意継続保険料の上限は月額3万4,740円(40歳以上・介護保険料込み)。年間約41.7万円だ。国保料の上限が年間106万円に達しうることを考えると、任意継続のほうが安い場合が多い。
※税務・社会保険の判断は個別事情により大きく異なります。退職前に税理士や社労士への相談を推奨します。
08まとめ
- —会社員なら確定申告しても健康保険料に影響なし。ただしFIRE後・退職後は国保料が跳ね上がるリスクがある
- —課税所得695万円以上なら、配当控除目的の申告はほぼ損。損益通算・繰越控除の必要がなければ申告しないのが基本
- —2024年度から住民税の申告不要制度が廃止。「所得税だけ申告」の有効な手法は使えなくなった
- —FIRE後は「申告不要な資産設計」をつくるのが最適解。新NISAの活用、配当再投資型ファンドへのシフト、口座集約がカギ
- —退職後2年間の任意継続は貴重な猶予期間。この間に損益通算を済ませておく
制度は「知っているかどうか」で手取りが数十万円変わる世界だ。特にFIREを視野に入れている人は、退職前の段階から社会保険料まで含めたシミュレーションを走らせておきたい。
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