株の確定申告で社会保険料が増える?節税の判断基準と対策

株の確定申告で社会保険料が増える?節税の判断基準と対策 - 株の確定申告で社会保険料が増える?節税の判断基準と対策 - アイキャッチ画像
TEKO編集部

TEKO編集部

X

内資系製薬→M&A仲介→外資系製薬
「本業+α」を提唱
本業×複業の掛け算によってキャリア・人生にレバレッジを
不動産投資(不動産賃貸業)
海外輸出物販


約6分で読めます

「配当控除で税金を取り戻せる」——そう聞いて確定申告したら、翌年の国民健康保険料が20万円以上跳ね上がった。

これは実際にFIRE達成後の元コンサル勤務・42歳男性が経験した話だ。特定口座(源泉徴収あり)で完結していた株の利益を、わざわざ確定申告に載せた結果、所得税の還付額を国保料の増加が大きく上回ってしまった。

所得税だけを見れば確かにお得。しかし社会保険料まで含めた「手取りベース」で考えると、確定申告が裏目に出るケースは少なくない。

本記事では、確定申告すべきかどうかの損益分岐点を具体的な数値で示し、FIRE後や退職後に使える実践的な対策までカバーする。

株の確定申告で社会保険料が増える?節税の判断基準と対策 - 確定申告書類が広がったデスクの上でスマホの株価チャートを確認する手元

01まず押さえたい「特定口座」の仕組みと申告の選択肢

特定口座(源泉徴収あり)を使っていれば、株の売却益・配当には自動的に20.315%(所得税15.315%+住民税5%)が天引きされる。この時点で納税は完了しており、確定申告は不要だ。

ここがポイントになる。「申告不要」を選べば、株の利益は国民健康保険料の算定基礎に含まれない。つまり、どれだけ株で儲けても国保料には影響しない。

一方、確定申告をすると話が変わる。申告した株式所得は「合計所得金額」に算入され、国保料・介護保険料・後期高齢者医療保険料の計算に跳ね返る。

では、なぜあえて確定申告する人がいるのか。主に3つの理由がある。

  1. 配当控除を使って所得税・住民税を減らしたい
  2. 損益通算で売却損と配当・利益を相殺したい(複数口座がある場合)
  3. 繰越控除で過去3年の損失を今年の利益から差し引きたい

いずれも所得税の世界では合理的な選択だ。問題は、この「合理的な選択」が社会保険料という別のルールで裏目に出ることにある。

02確定申告で国保料はいくら上がるのか

結論から言うと、株式所得200万円を申告した場合、自治体によって15万〜25万円の国保料増加が発生する。

国民健康保険料は自治体ごとに料率が異なるが、所得割の料率は概ね7〜12%だ。厚生労働省の「国民健康保険事業年報」(令和5年度)によると、全国平均の所得割料率は医療分・支援金分・介護分を合わせて約11.5%になる。

株の確定申告で社会保険料が増える?節税の判断基準と対策 - 電卓を叩きながら書類を見比べる、リビングでの確定申告作業風景

具体的にシミュレーションしてみよう。

前提条件
前提: 年間配当収入200万円、課税所得330万円以下のFIRE達成者(42歳・東京都世田谷区在住)
計算式
計算:
【申告しない場合】源泉徴収20.315% = 約40.6万円で完了。国保料への影響ゼロ
【申告する場合】
配当控除による所得税還付 = 200万円 × 10% = 20万円
住民税の配当控除 = 200万円 × 2.8% = 5.6万円
→ 還付合計 約25.6万円
国保料の増加 = 200万円 × 11.49%(世田谷区の所得割合計)= 約23万円
結果
結果: 差し引き約2.6万円のプラス。ただし課税所得が330万円を超えると配当控除率が下がり、逆転する

このシミュレーションで見えてくるのは、「得をする幅が極めて小さい」という現実だ。わずか2.6万円の差なら、申告の手間やミスのリスクを考えると割に合わない人も多い。

さらに課税所得が900万円を超えると所得税率が33%に上がり、配当控除のメリットがほぼ消える。加えて、課税総所得金額等が1,000万円を超える部分は配当控除率が5%に下がるため、申告するほど損になる。

課税所得 / 所得税率 / 配当控除率 / 申告の有利不利 比較
課税所得 所得税率 配当控除率 申告の有利不利
330万円以下 10% 10% 有利(ただし国保料に注意)
330万〜695万円 20% 10% ケースバイケース
695万〜900万円 23% 10% 不利になりやすい
900万〜1,000万円 33% 10% 非常に不利
1,000万円 33% 5% 申告は非推奨
330万円以下
所得税率10%
配当控除率10%
申告の有利不利有利(ただし国保料に注意)
330万〜695万円
所得税率20%
配当控除率10%
申告の有利不利ケースバイケース
695万〜900万円
所得税率23%
配当控除率10%
申告の有利不利不利になりやすい
900万〜1,000万円
所得税率33%
配当控除率10%
申告の有利不利非常に不利
1,000万円
所得税率33%
配当控除率5%
申告の有利不利申告は非推奨

現役のハイキャリア会社員であれば、課税所得695万円超のケースが多いだろう。その場合、配当控除目的の確定申告はほぼメリットがない。

032024年度税制改正で変わった「住民税の申告不要制度」廃止の影響

見落としがちな制度変更がある。2024年度分(令和6年分)の確定申告から、所得税と住民税で異なる課税方式を選ぶことができなくなった。

株の確定申告で社会保険料が増える?節税の判断基準と対策 - 市役所の窓口で職員と相談している中年男性の横顔

以前は「所得税は総合課税で申告して配当控除を受け、住民税は申告不要にして国保料への影響を回避する」という使い分けができた。いわゆる「住民税申告不要制度」だ。

この使い分けが2024年度分から封じられている。所得税で確定申告した内容は、自動的に住民税にも反映される。つまり、確定申告=国保料に影響が出る、という構図が確定した。

総務省の「令和6年度税制改正の解説」でも明記されている通り、この改正の意図は「課税の公平性の確保」にある。裏を返せば、これまでの使い分けが「制度の抜け穴」として認識されていたということだ。

この改正により、確定申告の判断はよりシンプルになった。「申告して得するかどうか」を、所得税+住民税+社会保険料のトータルで判断するしかない。

04確定申告すべきか?5ステップの判断フロー

確定申告の要否を判断するための実践的なフローを整理した。

株の確定申告で社会保険料が増える?節税の判断基準と対策 - ノートPCとコーヒーカップが置かれた書斎デスク、窓から朝の光が差し込む
1
口座の状況を確認
特定口座(源泉徴収あり)が1つだけなら、基本的に申告不要。複数口座で損益通算したい場合のみ次へ進む(所要時間:5分)
2
損益通算・繰越控除の対象があるか確認
他の口座で売却損がある、または過去3年に繰越損失がある場合は申告メリットあり。損失額を確認する(所要時間:10分)
3
課税所得を概算する
給与所得控除後の金額から各種控除を引く。695万円以上なら配当控除目的の申告は非推奨(所要時間:15分)
4
国保料の増加額を試算する
自治体の所得割料率を調べ、申告予定の株式所得に掛ける。自治体のWebサイトで料率を確認できる(所要時間:15分)
5
トータル損益を比較する
「所得税・住民税の還付額」と「国保料・介護保険料の増加額」を比較。年間1万円以上のプラスがなければ申告しない判断も合理的(所要時間:10分)

注意点として、会社員で健康保険(協会けんぽ・組合健保)に加入している場合、株の確定申告は保険料に影響しない。健康保険料は標準報酬月額で決まるため、株式所得は計算に入らないからだ。

影響が出るのは国民健康保険の加入者、つまりFIRE達成者・退職者・自営業者・年金生活者だ。

05ケーススタディ:FIRE後に「申告しすぎた」38歳元外資金融マン

株の確定申告で社会保険料が増える?節税の判断基準と対策 - 海辺のテラスでノートPCを開きながらリラックスした服装で作業する男性

具体的な事例で見てみよう。Aさん(38歳・元外資金融機関勤務)は2024年にFIREを達成。退職後は国民健康保険に加入し、年間配当収入約400万円と譲渡益約300万円で生活している。

FIRE1年目、Aさんは「配当控除で税金を取り戻そう」と考え、全額を確定申告した。

結果はこうなった。

前提条件
前提: FIRE達成者(38歳)、配当収入400万円+譲渡益300万円、他の所得なし、東京都渋谷区在住
計算式
計算:
【所得税の還付】配当400万円 × 配当控除10% = 40万円の税額控除
ただし課税所得が330万円を超える部分は控除率が下がる
実質還付額 = 約28万円
【国保料の増加】申告所得700万円 × 所得割合計約11.5% = 約80.5万円の増加
※上限額(年間106万円・令和6年度)に達する可能性あり
結果
結果: 差し引き約52万円の損失。申告しなければ源泉徴収で完了し、国保料は最低額で済んだ

52万円の損失。これは笑えない金額だ。

Aさんの失敗は「所得税しか見ていなかった」ことに尽きる。税理士に相談していれば防げた事態だが、FIRE後は顧問税理士を持たない人も多い。

翌年からAさんは、損益通算が必要な年だけ確定申告する方針に切り替えた。さらに、配当を出さないインデックスファンド(配当再投資型)の比率を高め、そもそも申告判断が不要な資産構成へとシフトしている。

06FIRE後の資産構成で「申告が必要ない設計」をつくる

確定申告の損得を毎年計算するのは面倒だ。もっと根本的な解決策がある。

株の確定申告で社会保険料が増える?節税の判断基準と対策 - 高層ビルの展望フロアから都市の夜景を見下ろすシルエット

そもそも確定申告が不要な資産構成にしておけばいい。FIRE後の生活費を賄う資産を「申告不要で完結する形」にデザインするという発想だ。

具体的には以下のチェックリストが参考になる。

  • 特定口座(源泉徴収あり)を使っている
  • 高配当株より配当再投資型のインデックスファンドに寄せている
  • 複数の証券口座を1つに集約し、口座間の損益通算を不要にしている
  • 生活費は「定期売却サービス」で取り崩し、配当に依存しない設計にしている
  • 新NISAの非課税枠(1,800万円)を最大限活用している

特に新NISAの活用は重要だ。金融庁の発表によると、2024年1月の新NISA開始から半年で、NISA口座数は約2,322万口座に達している。非課税枠1,800万円をフル活用すれば、年利5%で運用した場合の年間リターン90万円が完全非課税になる。

当然、国保料にも一切影響しない。

配当控除に固執するより、非課税の枠を使い切るほうがはるかに効果が大きい。制度の「部分最適」ではなく「全体最適」を設計するという視点が、ハイキャリア層にはしっくりくるはずだ。

07退職のタイミングと「任意継続」の判断

FIRE・早期退職を考えている人にもう一つ押さえてほしいのが、健康保険の任意継続制度だ。

株の確定申告で社会保険料が増える?節税の判断基準と対策 - オフィスビルのエントランスを出て青空を見上げるスーツ姿のビジネスパーソン

退職後2年間は、元の会社の健康保険に「任意継続」で加入できる。任意継続の保険料は退職時の標準報酬月額で固定され、株式所得は一切影響しない。

つまり、退職後2年間は株の確定申告を自由にできる「猶予期間」になる。この間に損益通算や繰越控除を済ませておくのが賢い動きだ。

ただし注意点がある。任意継続の保険料は全額自己負担(在職時は会社と折半)になるため、月額が跳ね上がるケースもある。

協会けんぽの場合、2024年度の任意継続保険料の上限は月額3万4,740円(40歳以上・介護保険料込み)。年間約41.7万円だ。国保料の上限が年間106万円に達しうることを考えると、任意継続のほうが安い場合が多い。

1
退職前に試算する
任意継続の保険料と国保料を比較。自治体の国保料シミュレーターと協会けんぽのHPで試算できる(所要時間:30分)
2
退職後20日以内に手続き
任意継続の申請期限は退職日の翌日から20日以内。この期限は厳守(所要時間:1時間)
3
2年間の猶予で損益通算を実行
繰越控除は3年分まで遡れるため、任意継続期間中に計画的に損益を確定させる
4
3年目以降の資産構成を最適化
国保加入後は「申告不要で完結する設計」に切り替え

※税務・社会保険の判断は個別事情により大きく異なります。退職前に税理士や社労士への相談を推奨します。

08まとめ

  • 会社員なら確定申告しても健康保険料に影響なし。ただしFIRE後・退職後は国保料が跳ね上がるリスクがある
  • 課税所得695万円以上なら、配当控除目的の申告はほぼ損。損益通算・繰越控除の必要がなければ申告しないのが基本
  • 2024年度から住民税の申告不要制度が廃止。「所得税だけ申告」の有効な手法は使えなくなった
  • FIRE後は「申告不要な資産設計」をつくるのが最適解。新NISAの活用、配当再投資型ファンドへのシフト、口座集約がカギ
  • 退職後2年間の任意継続は貴重な猶予期間。この間に損益通算を済ませておく

制度は「知っているかどうか」で手取りが数十万円変わる世界だ。特にFIREを視野に入れている人は、退職前の段階から社会保険料まで含めたシミュレーションを走らせておきたい。

TEKO公式LINEでは、資産形成や制度活用に関する最新情報を配信中。退職・独立のタイミングで見落としがちなポイントも定期的にお届けしている。

株の確定申告で社会保険料が増える?節税の判断基準と対策 - 夕暮れの公園のベンチに座り、スマートフォンで資産管理アプリを確認する人物
この記事をシェアXLinkedInLINE
TEKO EDITORIAL
与信をテコに、未来を設計する
ハイキャリア向け資産形成の最新コラムを配信中

カテゴリ

マネーリテラシー 資産形成 不動産投資 副業 独占インタビュー ハイキャリア向け転職 ハイキャリア向け英語

おすすめ記事

確かな実践知が集う場所

医師・GAFAM・5大総合商社・外資系戦略コンサル...
日本トップTierのビジネスパーソンも実践している
令和時代の新たなキャリアデザイン

人生が飛躍する「テコの効かせ方」
お受け取りはこちらから