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相続実家の売却で600万円差がつく!空き家特例の正しい使い方
親が亡くなり、誰も住まなくなった実家。「早く売ってしまいたい」と思いつつ、何から手をつければいいかわからない——そんな状況に直面しているハイキャリア層は意外に多い。
問題は、売り方を間違えると数百万円単位で手取りが変わることだ。
この記事では、「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除」、通称「空き家特例」の構造を解体し、解体工事のタイミング・契約書の記載方法・よくある失敗パターンまでを具体的に解説する。制度を正確に理解しているかどうかが、そのまま手取り額の差になる典型例だ。

01そもそも空き家特例とは何か——3000万円控除の正体
空き家特例とは、相続した旧実家を売却した際に、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度だ。正式名称は「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」(租税特別措置法35条3項)。
譲渡所得に対する税率は、所有期間5年超の「長期譲渡所得」で20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%)。仮に譲渡益が3,000万円あれば、特例を使わない場合の税額は約609万円。これが0円になる。タイトルにある「600万円差」はここから来ている。
ただし、この特例には複数の厳しい要件がある。「相続した家だから自動的に使える」と思い込んでいると、申告時に弾かれるケースが後を絶たない。
適用要件の全体像
国税庁の公式資料(「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」)によると、主な要件は以下の通りだ。
特に見落としがちなのが「4」と「3」だ。この2つが、解体タイミングと契約書の書き方に直結する。

02解体タイミングで明暗が分かれる理由
空き家特例を使う際、建物の扱いは大きく2パターンある。
| 対応パターン | 内容 | 特例適用の可否 |
|---|---|---|
| 耐震リフォームして売却 | 現行耐震基準に適合するよう改修してから売る | 適用可 |
| 解体して更地で売却 | 建物を壊して土地として売る | 適用可(条件あり) |
| 何もせず建物付きで売却 | 旧耐震基準のまま、解体もせず売る | 適用不可 |
旧耐震基準(1981年5月31日以前建築)の建物を、耐震改修もせず、解体もしないまま売ると、特例は一切使えない。これが最初の落とし穴だ。
「解体はいつやるか」が命取りになる
解体して更地で売る場合、問題になるのが解体のタイミングだ。
2024年の税制改正(令和5年度改正)により、2024年1月1日以降の譲渡については「買主が売却後に解体または耐震改修する場合」も特例が適用されるようになった。ただし、この場合は確定申告時に買主の耐震工事または解体完了の証明書類が必要になる。
つまり、売主側が解体を完了させてから売るのが最もシンプルで確実な方法だ。
売主が解体する場合の鉄則:「引き渡し前に解体完了」
売買契約を締結した後、引き渡し前に解体が完了していれば問題ない。しかし「契約後・引き渡し前」という微妙なタイミングに注意が必要で、解体完了日が引き渡し日より後になってしまうと要件を満たさない可能性がある。
元国税専門官の小林義崇氏も指摘するように、「解体工事の完了日と所有権移転日の前後関係」が特例の可否を左右する。工事業者のスケジュール管理が甘いと、思わぬ形で要件を外れることがある。

03契約書の「書き方」で特例が消える
解体タイミングと並んで重要なのが、売買契約書の記載内容だ。
「土地と建物」の売買か「土地のみ」の売買か
解体前に売買契約を締結し、その後引き渡し前に解体する場合、契約書の書き方が問題になる。
NGパターン:契約書に建物の記載がある
更地渡しで合意していても、売買契約書に「建物」が売買対象として記載されていると、「建物付きで売った」と解釈されるリスクがある。この場合、引き渡し時点で建物が存在しないとしても、契約書上は建物付き売買となり、特例の「更地または耐震改修済みで売却」という要件との整合性が問われる。
推奨パターン:解体後に契約書を作成、または「土地のみ」として契約
最も安全なのは、解体完了後に「土地のみ」の売買契約を締結することだ。更地になった状態で契約すれば、解釈の余地がない。
どうしても解体前に契約を締結する必要がある場合は、契約書に「引き渡し時点で建物を解体・撤去した更地として引き渡す」旨を明記し、かつ実際に引き渡し前に解体を完了させることが必須だ。
※契約書の記載内容と特例適用の関係は個別の事情によって異なります。税務判断は必ず税理士にご確認ください。

042024年改正で何が変わったか——買主解体でも使えるようになった
2024年1月1日以降の譲渡に適用される改正内容を整理しておこう。
国税庁の「令和5年度税制改正の解説」によると、改正前は売主が耐震改修または解体を完了させることが要件だった。改正後は、買主が譲渡の翌年2月15日までに耐震改修または解体を完了した場合にも特例が適用されるようになった。
これは実務上、大きな変化だ。
改正前は「売主が解体費用を負担して更地にしてから売る」しか選択肢がなかったが、改正後は「建物付きのまま売り、買主が解体する」というパターンでも特例が使えるようになった。
ただし、この場合の注意点が2つある。
- 確定申告時に買主の工事完了証明が必要。買主が「やっぱり解体しなかった」となると特例が使えなくなるため、売買契約書に「買主は翌年2月15日までに解体または耐震改修を完了する義務を負う」旨を盛り込んでおくのが現実的だ。
- 売主の確定申告は「買主の工事完了後」に行う必要がある。翌年2月15日を待ってから申告することになるため、通常の確定申告期間(2月16日〜3月15日)とほぼ重なる。スケジュール管理に注意が必要だ。

05落とし穴ケーススタディ——年収1,500万円・48歳・外資コンサル勤務のAさんの場合
Aさんは2022年に父親を亡くし、1978年築の実家(東京郊外)を相続した。相続税の申告は済ませ、実家は空き家のまま2年間放置。2024年に不動産会社から「3,500万円で買い手がついた」と連絡が来た。
Aさんは「3000万円控除があると聞いたことがある」と思い、特に確認せずに売買契約を締結。建物付きのまま引き渡した。
確定申告の際に税理士に相談して初めて判明したのが、「耐震改修も解体もしていない旧耐震基準の建物をそのまま売った」という事実だった。
結果:空き家特例の適用不可。譲渡所得約2,500万円に対して約508万円の税負担が発生。
もし売却前に税理士に相談し、引き渡し前に解体(費用約150万円)を完了させていれば、税負担はゼロ。解体費用を差し引いても約358万円の手取り増になっていた計算だ。
「知らなかった」では済まされない、典型的なケースだ。
よくある失敗パターン3選
- 相続開始から3年を過ぎて売却:親が亡くなった年から3年目の12月31日が期限。「いつでも使える」と思って先延ばしにすると期限切れになる。
- 老人ホーム入居後に亡くなったケースで要件を確認しない:被相続人が老人ホームに入居していた場合、一定の要件を満たせば特例が使えるが、要件確認を怠るケースが多い。
- 共有相続で1億円超え:兄弟で共有相続した場合、各共有者それぞれの持分に応じた譲渡対価の額が1億円以下かどうかで判定する(土地を分割して譲渡した場合などを除く)。物件全体の売却価格ではなく、各自の持分に応じた金額が判定基準となる点に注意が必要だ。

06制度設計の「本音」を読む——なぜ今この特例が重要か
空き家特例が創設されたのは2016年。背景には、全国で急増する空き家問題がある。
総務省「住宅・土地統計調査」(2023年)によると、全国の空き家数は900万戸を超え、空き家率は13.8%に達した。政府としては、老朽化した旧耐震基準の空き家を市場に流通させたい。そのための「アメ」として設計されたのが、この特例だ。
制度の「建前」は空き家対策だが、「本音」は旧耐震基準の危険建物を早期に除却・流通させること。だからこそ、耐震改修か解体が要件になっている。
2024年の改正で買主解体でも使えるようになったのも、「売主に解体費用の負担を強いると流通が滞る」という実態への対応だ。制度の改正方向を見れば、政府が「とにかく旧耐震の空き家を市場に出してほしい」と考えていることがわかる。
この政策意図を理解すると、「売る前に何をすべきか」の優先順位が自然と見えてくる。
他の特例との関係も押さえておく
空き家特例と混同されやすいのが「マイホームを売ったときの3,000万円特別控除」(措置法35条1項)だ。こちらは自分が住んでいた家を売る場合の特例で、空き家特例とは別物。ただし、同一の相続で両方を重複して使うことはできない。
また、相続税の「取得費加算の特例」(措置法39条)との選択適用も検討に値する。相続税を支払った場合、相続税額の一部を取得費に加算できる制度で、相続税が高かった場合は空き家特例より有利になるケースもある。
| 比較項目 | 空き家特例 | 取得費加算の特例 |
|---|---|---|
| 控除・加算の上限 | 3,000万円控除 | 相続税額の一部(上限なし) |
| 適用期限 | 相続開始から3年目の12月31日 | 相続開始の翌日から3年10ヶ月以内 |
| 建物要件 | 旧耐震基準・耐震改修or解体 | 特になし |
| 重複適用 | 不可(どちらか一方) | 不可(どちらか一方) |
| 有利な場面 | 譲渡益が大きい場合 | 相続税が高く、譲渡益が中程度の場合 |
どちらを選ぶかは、相続税額・取得費・売却価格の組み合わせによる。必ず税理士と一緒に試算することを強くすすめる。
※特例の選択は個別の税務状況によって最適解が異なります。税務判断は税理士にご確認ください。

07実務チェックリスト——売却前に確認すること
空き家特例を確実に使うために、売却前に以下を確認しておこう。
- ✓建物の建築確認済証または登記簿で建築年月日を確認(1981年5月31日以前か)
- ✓相続開始日を確認し、3年目の12月31日までの売却スケジュールを立てる
- ✓被相続人の居住状況を確認(老人ホーム入居の場合は別途要件確認)
- ✓区分所有建物(マンション等)でないことを確認
- 耐震改修 or 解体のどちらで対応するかを決定する
- 解体する場合は、引き渡し前に完了するスケジュールを工事業者と確認
- 売買契約書の記載内容を税理士・司法書士と事前確認
- 空き家特例と取得費加算の特例のどちらが有利か税理士と試算する
- 確定申告に必要な書類(登記事項証明書、売買契約書、解体証明書等)を準備

08まとめ
- —空き家特例は「旧耐震基準の建物を耐震改修または解体して売る」ことが大前提。何もしないまま売ると特例は使えない。
- —解体タイミングは「引き渡し前に完了」が基本。2024年改正で買主解体でも対応可能になったが、契約書への明記と確定申告のタイミング管理が必要。
- —契約書の書き方で特例の可否が変わる。解体前に契約する場合は「更地渡し」の条件を明記し、実際に引き渡し前に完了させること。
- —空き家特例と取得費加算の特例は重複不可。どちらが有利かは個別試算が必須。
- —相続開始から3年目の12月31日という期限は絶対に外さない。先延ばしが最大のリスク。
制度を正確に理解し、動くタイミングと書類の準備を怠らないこと——それだけで数百万円の差が生まれる。
相続した実家の売却を検討中の方は、TEKOのLINE公式アカウントで個別の状況に応じた情報を受け取れます。専門家への相談前の「整理」にぜひご活用ください。
※本記事は2024年時点の法令に基づき解説しています。個別の税務判断や契約書の作成については、必ず税理士や弁護士等の専門家にご相談ください。
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