標準報酬月額の上限引上げで手取り激減?高年収層への影響と対策

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TEKO編集部

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「本業+α」を提唱
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「社会保険料が上がる」という話は何となく聞いていても、自分への影響額を正確に把握している人は意外と少ない。

厚生年金の標準報酬月額の上限引上げをめぐる議論が続いている。現在の上限は65万円(第32級)であり、将来的な引上げシナリオが検討・議論されている段階だ。仮にこうした改定が実施された場合、年収1,500万円超のハイキャリア層には、年間で数十万円単位の手取り減という現実が迫りうる。

この記事では、制度の仕組みと改定議論の背景、具体的な影響額のシミュレーション、そして「構造を理解した人から先に動ける」実践的な対応策まで、順を追って整理する。

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01まず理解したい「標準報酬月額」の仕組み

POINT上限65万→75万円で年間約11万円増、65万→98万円で年間約36万円増。高年収ほど影響が大きく、年収2,000万円超では年間数十万円の手取り減となりうる。

標準報酬月額とは、毎月の給与をもとに社会保険料を計算するための「みなし月収」のことだ。

実際の給与額をそのまま使うのではなく、一定の等級に当てはめて計算する。たとえば月収が53万円でも55万円でも、同じ等級に分類されれば同じ保険料になる仕組みだ。この等級の「天井」が引上げ議論の対象となっている。

厚生年金保険の標準報酬月額には上限(最高等級)があり、これを超えた分の収入はいくら増えても保険料の計算に反映されない。逆に言えば、上限が引き上げられると、これまで「天井に張り付いていた」高収入層の保険料が一気に増える。

健康保険(協会けんぽや健保組合)と厚生年金では上限が異なる点も押さえておきたい。

02現行制度と引上げ議論:何が、いつ、どう変わりうるのか

POINT保険料が増えても将来の年金受給額は比例して増えない。高所得者ほど「払い増し>もらい増し」の構造が顕著になる。

現在の厚生年金の標準報酬月額の上限は65万円(第32級)だ。

なお、2024年10月の社会保険制度改正は、主に短時間労働者への適用拡大(従業員51人以上の事業所への対象拡大)を内容とするものであり、標準報酬月額の上限引上げではない点に注意が必要だ。

上限引上げについては、年金財政の安定化や高所得者の給付と負担のバランス是正を目的として、将来的な引上げが議論・検討されている。以下では、仮に段階的な引上げが実施された場合のシミュレーションとして、影響額を試算する。

※以下の試算はあくまで将来シナリオに基づく試算であり、現時点で決定・実施されている事実ではありません。制度の最新情報は厚生労働省の公式発表をご確認ください。

厚生労働省「厚生年金保険の標準報酬月額の上限の引上げについて」(2023年)では、こうした引上げの方向性について議論が行われている。

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一見すると「保険料が増える分、将来の年金も増えるのだから、損ではないのでは?」という話に聞こえる。しかし実態は単純ではない。後のセクションで詳しく触れるが、高収入層にとって「払い増し」と「もらい増し」のバランスは必ずしも有利ではない。

03影響額の試算:仮に上限が引き上げられたら手取りはいくら減るか

以下は、上限が65万円から段階的に引き上げられた場合の試算シミュレーションだ。

厚生年金の保険料率は現在18.3%で固定されている(労使折半のため、本人負担は9.15%)。

シナリオA:上限が65万円から75万円に引き上げられた場合

月額の差は10万円。本人負担増は以下の通りだ。

10万円 × 9.15%月額9,150円増
年間では 約10万9,800円増

シナリオB:上限が65万円から98万円に引き上げられた場合

現在の上限(65万円)との差は33万円

33万円 × 9.15%月額約30,195円増
年間では 約36万2,340円増

つまり、月収が98万円以上(年収約1,176万円以上)の会社員は、仮にフル引上げが実現した場合、年間で36万円もの保険料負担増になる計算だ。

これは手取りベースで毎月3万円近くが消える、という話である。

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なお、健康保険については協会けんぽの場合、標準報酬月額の上限はすでに139万円(第50級)と高く設定されているため、今回の厚生年金の議論とは別の話になる。自分が加入している健保組合の等級表を確認することをおすすめする。

04「払い増しの割に得しない」構造を理解する

ここで注目したいのが、「保険料を多く払えば将来の年金も増えるのだから、損ではないのでは?」という疑問だ。

確かに老齢厚生年金の受給額は、標準報酬月額の累積に連動して増える。上限引上げにより、高収入層の年金受給額も増加する設計だ。

しかし現実には、いくつかの構造的な問題がある。

回収期間の問題

日本年金機構のデータをもとに試算すると、65歳から受給を開始した場合、増加した保険料を「年金の増加分で回収」するには20年以上かかるケースが多い。85歳まで生きてようやくトントン、という計算になることも珍しくない。

高所得者の「所得代替率」の低さ

公的年金の所得代替率(現役時代の収入に対する年金の割合)は、高収入層ほど低くなる。厚生労働省の2023年財政検証によれば、所得代替率は将来的に50%前後を維持する見通しだが、これはあくまで「平均的な賃金の人」の話。年収1,500万円の人が受け取る年金は、現役時代の収入の20〜30%程度にとどまることが多い。

追加負担は「確定損失」、年金増加は「不確実な将来」

保険料の増加は今すぐ確定する手取り減だ。一方、将来の年金受給は制度改正リスク・長寿リスク・インフレリスクを抱えている。「確実に出ていくお金」と「不確実に入ってくるお金」を同列に比較するのは危険だ。

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05ケーススタディ:外資系コンサル・田中さん(44歳・年収2,000万円)の場合

具体例で考えてみよう。

プロフィール

  • 外資系コンサルティングファーム勤務・パートナー職
  • 年収2,000万円(月収ベース約167万円
  • 東京都在住、既婚・子ども2人

田中さんの場合、現行制度では厚生年金の標準報酬月額は上限の65万円に張り付いている。月収が167万円あっても、保険料計算上は65万円の人と同じ扱いだ。

シナリオA:上限75万円に引き上げられた場合

  • 月額保険料増:9,150円
  • 年間増加額:約10.98万円

シナリオB:上限98万円に引き上げられた場合

  • 月額保険料増:30,195円
  • 年間増加額:約36.2万円

仮にフル引上げが実現した場合、田中さんの手取りは年間36万円以上減る。月収ベースで換算すれば、毎月3万円超が消える計算だ。

「たかが36万円」と思うかもしれないが、これは税引き後の手取りからの減少だ。なお、田中さんの年収2,000万円の場合、各種控除後の課税所得は概ね1,500〜1,600万円程度となり、所得税の限界税率は33%(住民税10%を合わせると約43%)となる。同額を「取り戻す」には、税引き前ベースで相応の収入増が必要になる。

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06TEKOの視点:「制度変更」を「理解度の差」で乗り越える

社会保険制度の改正議論は、知っている人だけが事前に手を打てる。これはまさに「情報の質と解像度の差が資産格差を生む」構造の典型例だ。

ハイキャリア層が今すぐ検討できる対応策を整理する。

1. iDeCo(個人型確定拠出年金)の活用を見直す

iDeCoは掛金が全額所得控除になる。年収2,000万円クラスであれば、所得税の限界税率は33%(住民税10%を合わせると約43%)となる。iDeCoの掛金を最大化することで、保険料負担増を税負担の軽減で一部相殺できる。

会社員のiDeCoの掛金上限は、企業型DCなしの場合で月2.3万円2024年以降)と限られている。それでも年間27.6万円の掛金に対し、節税効果は年間10万円超になるケースもある。なお、企業型DCやDB(確定給付企業年金)等の他制度と併用する場合は上限が異なるため、自身の加入状況を確認することが重要だ。

※iDeCoの拠出限度額は加入状況によって異なります。詳細は国民年金基金連合会または加入する金融機関、社会保険労務士にご確認ください。

2. 企業型DCの活用状況を確認する

勤務先に企業型確定拠出年金(DC)がある場合、マッチング拠出や選択制DCの活用余地を確認したい。選択制DCは給与の一部をDCに振り替えることで、標準報酬月額そのものを下げられる可能性がある。

これは「手取りを守る」だけでなく、標準報酬月額を引き下げることで社会保険料の増加を直接抑制するという効果もある。ただし制度設計は会社ごとに異なるため、人事部への確認が必要だ。

3. 副業・法人化による収入分散を検討する

副業収入や役員報酬として別法人から受け取る収入は、厚生年金の適用が複数社にまたがる「二以上の事業所勤務」の扱いになる。この場合、各社での標準報酬月額は実際の報酬比率で按分されるため、一社あたりの標準報酬月額を抑制できるケースがある。

ただし、法人化や副業による社会保険料の削減効果は、事業の実態や報酬設計によって大きく異なる。実態を伴わない法人設立や形式的な報酬分散は、税務・社会保険上のリスクを伴う場合がある。副業・法人化はあくまで本業のスキルや人脈を活かした事業構築という文脈で検討するのが本筋であり、社会保険料の節約のみを目的とした設計は避けるべきだ。

必ず税理士・社会保険労務士に相談の上、適法な範囲で実施することを強く推奨する。

4. NISA・長期投資で「年金の不足分」を自分で埋める

公的年金への依存度を下げ、自分の資産形成で老後を賄う設計を強化する。2024年から拡充された新NISAは、年間360万円(成長投資枠240万円+つみたて投資枠120万円)まで非課税で投資できる。

高収入層にとって年間36万円の手取り減(将来シナリオ)は痛いが、それを嘆くより「その分を自分で運用して取り戻す」発想の転換が重要だ。

※税務・社会保険に関する判断は、税理士や社会保険労務士にご確認ください。各制度の詳細や個人の状況に応じた最適解は専門家への相談を通じてご判断ください。
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07見落としがちな「健保組合」の動向にも注意

厚生年金の改定議論に注目が集まりがちだが、健康保険側の動向も無視できない。

大企業の社員が加入する健保組合は、財政悪化が深刻だ。健康保険組合連合会(健保連)の2023年度調査によると、全健保組合の約6割が赤字であり、保険料率の引上げを検討している組合も増加している。

協会けんぽの標準報酬月額の上限は現在139万円だが、今後の制度改正で引き上げられる可能性も否定できない。厚生年金と健保の両方で上限が引き上げられた場合、高収入層の社会保険料負担は現在より年間60〜80万円になるシナリオも想定しておく必要がある。

社会保険料は「給与明細に自動で載ってくるもの」として受け身になりがちだ。しかし制度の構造を理解し、変化の方向性を先読みしておくだけで、対応の選択肢は大きく広がる。

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08制度変更への向き合い方:「損した」で終わらせない思考法

標準報酬月額の上限引上げが実現した場合、ハイキャリア層にとって明確な「不利な変化」となりうる。それは率直に認めていい。

ただ、ここで思考停止してしまうのが最ももったいない。

制度変更には必ず「勝者」と「敗者」が生まれる。仮に改定が実施された場合、事前に選択制DCや副業法人化の仕組みを整えていた人は、影響を最小化できる。一方、何も知らずに給与明細が変わってから気づいた人は、対応できる選択肢が狭まっている。

「理解して行動した人が優位を取りやすい」という表現は少し過激に聞こえるかもしれない。でも社会保険や税制の世界では、これが現実だ。

制度は常に動いている。今後も少子高齢化の進行に伴い、社会保険料の引上げや給付削減の圧力は続くだろう。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、2070年には日本の総人口が8,700万人まで減少し、現役世代1.2人で高齢者1人を支える構造になる見通しだ。

この構造的な圧力を前提にすれば、「今後も社会保険料は上がり続ける」という仮定で資産形成を設計するのが合理的だ。

09まとめ

  • 厚生年金の標準報酬月額の現行上限は65万円(第32級)。将来的な引上げが議論・検討されている段階であり、2024年10月の改正は主に短時間労働者への適用拡大に関するものだ。
  • 仮に上限が98万円まで引き上げられた場合、年収1,176万円超の会社員は年間約36万円の保険料負担増となるシミュレーションになる。手取りベースで毎月3万円近くが消える計算だ。
  • 「保険料増=年金増」は高収入層には割に合わない構造。回収期間の長さと所得代替率の低さが理由だ。
  • 対応策の優先順位は「選択制DC→iDeCo→NISA→副業法人化」。自分の勤務先の制度を確認するところから始めよう。なお、iDeCoの上限は企業型DCなしの会社員で月2.3万円、法人化等の社会保険対策は専門家への相談が必須だ。
  • 制度変更は「情報を持っている人」だけが事前に動ける。今動くことが、数年後の手取りを守る最善策だ。

社会保険制度の変化は、資産形成の「土台」を揺るがす話だ。投資リターンを1%改善するより、手取りを守る制度活用の方が即効性が高いことも多い。

まずは自分の標準報酬月額の現在値と、今後の改定議論の動向による影響額を把握しておくことをおすすめする。

制度の細部や個別の最適解については、TEKOの書籍「レバレッジ設計」でも詳しく解説している。社会保険・税制の構造を理解した上で資産形成を加速させたい方は、ぜひLINE登録で最新情報をチェックしてほしい。

免責事項:本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の投資・税務・法務行為を推奨するものではありません。iDeCo・NISA・企業型DC・法人化・副業等に関する判断は、税理士・社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー等の専門家にご相談の上、ご自身の責任においてご判断ください。社会保険制度に関する情報は厚生労働省等の公式発表を必ずご確認ください。
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参考資料・出典

  • 厚生労働省「厚生年金保険の標準報酬月額の上限の引上げについて」(2023年
  • 厚生労働省「令和5年財政検証結果」(2023年
  • 健康保険組合連合会「健保組合の財政状況調査」(2023年度)
  • 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」(2023年
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