不動産投資
不動産投資の節税と融資、両立する戦略とは
「節税すると、次の融資が通らなくなる」——賃貸経営を始めた人が必ずぶつかる壁だ。
実際、この悩みを抱えるオーナーは多い。節税で手取りを増やしたい。でも所得を下げすぎると金融機関の審査で弾かれ、規模拡大の道が閉じてしまう。
この記事では、節税と与信の両立が「なぜ難しいのか」を構造から整理し、ハイキャリア会社員が取るべき現実的な打ち手を具体的に示す。結論から言えば、やり方次第で両立は十分に可能だ。
01節税が融資に不利になる「本当の理由」

節税による所得圧縮が融資審査の「返済能力評価」に直撃するのが根本原因だ。
金融機関が融資審査で見るのは、主に以下の2軸だ。
- 属性(勤務先・年収・勤続年数)
- 事業収支(賃貸経営の損益・キャッシュフロー)
会社員の場合、給与収入は比較的安定して評価される。問題は不動産所得の部分だ。
たとえば、減価償却費を積極的に計上して不動産所得を赤字にした場合、確定申告書の「不動産所得欄」にはマイナスが記載される。
金融機関の担当者がこれを見ると、「この物件はキャッシュを生んでいない」と判断するケースがある。実際には減価償却は現金支出のない経費なのだが、審査担当者によっては帳簿上の赤字をそのまま「事業の不振」と読む。
国土交通省「令和5年度 民間住宅ローンの実態に関する調査」によると、金融機関が融資審査で重視する項目の上位に「完済時年齢」「健康状態」と並んで「返済負担率(年収に占める返済額の割合)」が挙げられている。不動産所得が赤字になると、実質的な「稼ぐ力」が低く見られ、この返済負担率の計算にも悪影響が出る。
つまり、節税の問題点は「税金が減る」ことではなく、「審査書類上の所得が下がる」ことにある。ここを押さえておくと、対策の方向性が見えてくる。
02節税の種類によって「融資への影響度」は全然違う

節税手法は「所得を下げるもの」と「所得を下げずに税負担を減らすもの」に大別される。融資に悪影響を与えるのは前者だけだ。
ここを混同している人が非常に多い。整理してみよう。
| 節税手法 | 所得への影響 | 融資への影響 |
|---|---|---|
| 減価償却の積極計上 | 所得が下がる | 悪影響あり(大) |
| 経費の適正計上(修繕費等) | 所得が下がる | 悪影響あり(中) |
| セーフティ共済(中小機構) | 所得が下がるが別枠評価されやすい | 影響小(後述) |
| iDeCo | 給与所得控除後の所得が下がる | 影響軽微 |
| 法人への所得移転 | 個人所得が下がる | 法人評価に切り替わる |
| 青色申告特別控除(65万円) | 所得が下がる | 影響軽微(控除額が小さい) |
重要なのは、「減価償却の積極計上」が最も融資への悪影響が大きい点だ。
たとえば、築古木造アパートを購入して耐用年数を短縮し、大きな減価償却費を計上する手法は節税効果が高い。しかし不動産所得が大幅な赤字になるため、次の融資審査で「この人は赤字物件を持っている」と見なされやすい。
一方、iDeCoや青色申告特別控除は、不動産所得そのものには影響しない。融資審査書類(確定申告書)に与えるダメージは比較的小さい。
03セーフティ共済が「最適解」に近い理由

セーフティ共済(経営セーフティ共済)は、節税効果と融資への影響を両立できる数少ない手段の一つだ。
正式名称は「中小企業倒産防止共済制度」。中小機構(独立行政法人中小企業基盤整備機構)が運営する制度で、取引先の倒産に備えた共済だが、節税手段として活用されることも多い。
主な特徴は以下の通りだ。
なぜ融資への影響が小さいのか。
それは、セーフティ共済の掛金が「積立型の支出」であることを、多くの金融機関の担当者が理解しているからだ。減価償却のように「物件の価値が下がっている」という意味合いではなく、「将来戻ってくる資産を積み立てている」という性格が明確だ。
実際、融資審査の場でセーフティ共済の明細を提出すると、担当者が「これは共済の積立ですね」と確認し、実質的な所得として読み替えてくれるケースがある。
ただし、これは金融機関や担当者によって対応が異なる。事前に「共済掛金を加算した実質所得はいくらになるか」を資料として準備しておくと、審査がスムーズになる。
※税務判断は必ず税理士にご確認ください。実効税率は所得・控除額によって異なります。
04ケーススタディ:年収1,800万円の外資コンサルが取った戦略

実際にどう動いたか、具体的なケースで見てみよう。
Aさん(42歳・外資系コンサルティングファーム勤務・年収1,800万円)
都内に区分マンション2室を保有。減価償却を積極活用し、不動産所得を毎年△150万円(赤字)にしていた。節税効果は大きかったが、3棟目の融資を申し込んだところ、メガバンクの担当者から「不動産所得が赤字のため、追加融資は難しい」と言われた。
問題の構造
確定申告書を見た金融機関は、「給与収入1,800万円はあるが、不動産事業は赤字体質」と判断。給与収入だけで見れば問題ないはずが、賃貸経営の評価が足を引っ張った。
Aさんが取った打ち手
- 翌年から減価償却の計上を抑制し、不動産所得を黒字(+80万円)に転換
- 同時にセーフティ共済に加入し、年間240万円を掛金として計上
- 確定申告書の不動産所得は△160万円になるが、共済掛金の明細を添付資料として準備
- 地方銀行・信用金庫にアプローチし、「共済掛金を加算した実質所得」を説明
結果
地方銀行1行が「実質所得ベースで問題なし」と判断し、3棟目の融資(物件価格8,000万円・金利1.9%・35年)を実行。翌年以降も同じ戦略を維持しながら、年間の節税効果は約100万円をキープしている。
ポイントは「減価償却の抑制」と「セーフティ共済の活用」を組み合わせた点だ。前者だけでは節税効果が薄れ、後者だけでは金融機関の理解が得られないケースもある。両者を組み合わせることで、バランスを取った。
05法人化という選択肢:与信を「個人」と「法人」で分離する

個人の与信を守りながら節税を最大化したいなら、法人化による「与信の二元化」が有効な選択肢になる。
法人化の最大のメリットは、個人の確定申告書と法人の決算書を切り離せることだ。
個人で物件を持ちながら法人に管理業務を委託する「管理法人方式」と、物件自体を法人名義で取得する「所有法人方式」の2種類がある。どちらを選ぶかは、物件の規模と融資戦略によって変わる。
| 比較項目 | 管理法人方式 | 所有法人方式 |
|---|---|---|
| 物件の名義 | 個人 | 法人 |
| 融資の主体 | 個人 | 法人 |
| 節税効果 | 中程度(管理料分) | 高い(役員報酬・経費計上) |
| 個人与信への影響 | 軽微 | ほぼなし |
| 設立・維持コスト | 低い | 高い(法人税・社会保険等) |
| 融資のしやすさ | 個人属性に依存 | 法人実績が必要(初期は難しい) |
ハイキャリア会社員にとって現実的なのは、まず「管理法人方式」から始めることだ。
個人の給与収入は手をつけず、不動産収入の一部を法人に管理料として流す。法人で役員報酬を受け取ることで、所得分散と節税を実現しながら、個人の確定申告書への影響を最小化できる。
国税庁の「令和4年分 民間給与実態統計調査」によると、年収1,000万円超の給与所得者の実効税率は所得税・住民税合計で40〜45%に達する。法人税率(中小法人の軽減税率:年800万円以下の所得に15%)との差は大きく、所得移転の節税効果は十分に計算できる。
ただし、法人設立には年間最低でも約20〜30万円の維持コスト(税理士費用・法人住民税均等割等)がかかる。不動産所得が年間200万円を下回る段階では、コストが節税効果を上回るケースもある。規模感を見て判断したい。
06「融資を守る確定申告書」の作り方

確定申告書の「見た目」を意識するだけで、融資審査の通りやすさは変わる。
金融機関が審査で見る確定申告書は、基本的に「第一表」と「第二表」、そして「収支内訳書(または青色申告決算書)」だ。
意外に見落としがちなのが、収支内訳書の「減価償却費」の欄だ。ここに大きな金額が載っていると、担当者によっては「現金は出ていないのに経費として引いている」という構造を理解せず、単純に「赤字事業」と判断してしまう。
対策として有効なのは以下の3点だ。
金融機関の担当者は、毎日大量の案件を処理している。説明が必要な資料は、こちらから先回りして用意する姿勢が重要だ。「書類を出せと言われたら出す」ではなく、「なぜこの数字になっているかを最初から説明する」スタンスが、審査の印象を変える。
また、融資を申し込む金融機関の選定も重要だ。メガバンクは審査基準が画一的で、帳簿上の赤字に厳しい傾向がある。一方、地方銀行や信用金庫は担当者の裁量が大きく、実態を丁寧に説明することで柔軟な対応が期待できる。
日本銀行「貸出先別貸出金(2024年末)」によると、不動産業向け貸出残高は地方銀行が全体の約40%を占め、依然として地域金融機関が不動産投資融資の主要プレーヤーであることがわかる。
07過度な節税が招く「出口リスク」も忘れずに

節税と融資の両立だけを考えていると、もう一つのリスクを見落とす。それが「売却時の税負担」だ。
減価償却を積極的に計上すると、物件の帳簿上の価値(簿価)が下がる。売却時には「売却価格 – 簿価」が譲渡所得として課税されるため、簿価が低いほど課税額が大きくなる。
たとえば、5,000万円で購入した物件の簿価が減価償却によって2,000万円まで下がっていた場合、5,500万円で売却すると譲渡所得は3,500万円になる。長期譲渡所得(保有5年超)の税率は約20%(所得税・住民税合計)なので、税負担は700万円だ。
節税で毎年100万円を浮かせても、出口で700万円を払うなら、長期的なキャッシュフローは必ずしもプラスではない。
ここで重要なのが、「節税の恩恵を受けた期間の手残り合計」と「出口での税負担」を比較する視点だ。短期保有・高速回転を前提にするなら減価償却の積極活用は有効だが、長期保有・安定インカム狙いなら節税の度合いを抑えた方がトータルで有利になることも多い。
戦略は保有期間と出口想定によって変わる。「今の節税額」だけを見て判断するのは危険だ。
08まとめ:節税と与信は「設計次第」で両立できる
節税が融資に不利になるのは「所得を下げる節税」を使いすぎた場合だ。手法を選べば、節税しながら与信を守ることは十分に可能だ。
- —セーフティ共済は「所得を下げるが、金融機関に実態説明しやすい」節税手段として優秀
- —減価償却の調整と組み合わせることで、帳簿上の赤字幅をコントロールできる
- —法人化は個人の与信を守りながら節税を深掘りしたい段階で有効な選択肢
- —確定申告書の「見た目」を設計する意識が、融資審査の結果を左右する
- —出口(売却)時の税負担を含めたトータル設計を忘れない
節税と融資は「どちらかを犠牲にする」関係ではない。ただ、その設計には税務・融資の両方を俯瞰できる視点が必要だ。
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