不動産投資
不動産投資の法人化:サブリース vs 所有型の選び方
個人で賃貸経営を続けてきたが、「そろそろ法人化した方がいいのでは」と感じている人は多い。
でも、いざ調べ始めると「サブリース方式」と「所有型方式」という2つの選択肢が出てきて、どちらが自分に合っているのか判断に迷う。
税理士に相談しても「どちらでも大丈夫ですよ」と言われてしまい、結局決め手がないまま時間だけが過ぎていく——そんな状況に心当たりはないだろうか。
この記事では、2つの方式の構造的な違いから、年収帯・物件規模別の判断基準まで、実務的な視点で整理する。
制度の「建前」だけでなく、税務上の実態にも踏み込んで解説するので、最後まで読めば自分に合った選択肢が見えてくるはずだ。

01まず確認:法人化の「2つの型」を整理する
法人化には大きく分けて2つの構造がある。サブリース方式(非所有型)と所有型方式だ。混同されやすいが、税務上の効果もリスクも全く異なる。
サブリース方式(非所有型)とは
不動産の所有権は個人のまま、法人が「転貸」によって収益を得る構造。
仕組みはシンプルだ。個人(オーナー)が所有する物件を、自分が設立した法人に一括で賃貸する。法人はその物件を入居者に転貸し、賃料収入を得る。
個人は法人から「固定の家賃(マスターリース料)」を受け取り、法人は入居者から受け取る賃料との差額(スプレッド)が法人の収益になる。
ポイントは、物件の名義変更が不要という点。不動産取得税や登録免許税がかからないため、初期コストを抑えられる。
所有型方式とは
不動産そのものを法人名義で所有する構造。
個人が持っている物件を法人に売却するか、新規購入から法人名義にする。賃料収入はすべて法人に入り、法人税の対象となる。
物件の売却益(譲渡所得)も法人課税になるため、個人の総合課税(最高税率55%)を回避できる。長期保有を前提とした大型物件ほど、この恩恵が大きい。

022つの方式を徹底比較する
まず全体像を表で把握しよう。
| 比較項目 | サブリース方式 | 所有型方式 |
|---|---|---|
| 物件の名義 | 個人のまま | 法人名義 |
| 移転コスト | ほぼゼロ | 不動産取得税・登録免許税が発生 |
| 賃料収入の帰属 | 個人(マスターリース料)+法人(スプレッド) | 全額が法人に帰属 |
| 所得分散の効果 | 中程度 | 高い |
| 相続税対策 | 限定的 | 株式評価を通じて対策可能 |
| 融資への影響 | 個人の属性が継続して使える | 法人の信用力次第 |
| 設立・維持コスト | 比較的低い | 登記・税務申告コストが増加 |
| 向いているフェーズ | 現有物件の節税最適化 | 長期的な資産拡大・相続対策 |
この表を見ると、「どちらが優れているか」ではなく、「今の自分のフェーズに合っているか」で選ぶべきだとわかる。
03サブリース方式が機能する場面と落とし穴
サブリース方式の最大のメリットは、物件を動かさずに法人を使った所得分散ができる点だ。
たとえば、個人の課税所得が2,000万円を超えているケースを考えてみよう。所得税の最高税率は45%(住民税と合わせると55%)になる。
ここで法人を設立し、不動産収入の一部を法人に移すことで、法人税率(中小法人の場合、年800万円以下の所得に対して15%の軽減税率)との税率差を活用できる。
法人税法上、中小法人の軽減税率は法人税法第66条第2項に規定されており、資本金1億円以下の法人が対象となる(国税庁「法人税の税率」参照)。
サブリース方式の3つの注意点
ただし、サブリース方式には見落としがちな落とし穴がある。
1. 賃料設定が「適正」でなければ否認リスクがある
法人に支払うマスターリース料(個人が法人から受け取る家賃)と、法人が入居者から受け取る賃料の差額が「不当に大きい」と税務署に判断された場合、その差額は「法人への利益供与」として課税対象になる可能性がある。
相場の賃料水準から大きく乖離しないよう、市場価格に基づいた適正な賃料設定が必要だ。
2. 個人の不動産所得はゼロにならない
マスターリース料は個人の不動産所得として課税される。法人に移せるのは「スプレッド部分」だけなので、個人の課税所得を大幅に圧縮するには限界がある。
3. 相続税対策としての効果は限定的
物件の名義が個人のままなので、相続時には物件の評価額がそのまま相続財産に含まれる。法人の株式評価を通じた相続税対策(後述)は活用しにくい。

04所有型方式が真価を発揮するケース
所有型方式は、中長期の資産拡大と相続対策を同時に狙う場合に本領を発揮する。
税率差の最大活用
個人の総合課税(最高55%)と法人税(実効税率約23〜34%)の差は、規模が大きくなるほど無視できなくなる。
国税庁の「法人税の実効税率」(2024年度)によると、中小法人の法人税・地方税を合わせた実効税率は約33%前後。個人の最高税率55%との差は約22ポイントにもなる。
年間の不動産収益が1,000万円あるとすれば、この差は単純計算で約220万円。10年間では2,200万円の差になる計算だ。
※ 実際の税額は給与所得控除・各種控除の適用状況によって異なります。税務判断は税理士にご確認ください。
相続税対策としての「株式評価」
所有型法人の大きな強みは、不動産を法人株式に「変換」することで、相続財産の評価額を下げられる点だ。
法人が不動産を所有している場合、相続財産は「法人株式」として評価される。株式の評価方法(類似業種比準方式・純資産価額方式)によっては、不動産を直接保有するよりも評価額が低くなるケースがある。
特に収益不動産の場合、純資産価額方式では含み益に対して37%の法人税等相当額を控除できるため、評価額が圧縮される。これは相続税の節税として有効な手段の一つだ(国税庁「財産評価基本通達」第185条参照)。
物件移転コストは「初期投資」として考える
所有型方式のデメリットとして必ず挙げられるのが、物件移転時のコストだ。
個人から法人への売却には、不動産取得税(固定資産税評価額の3〜4%)と登録免許税(固定資産税評価額の2%)がかかる。
たとえば固定資産税評価額が5,000万円の物件であれば、合計で最大300万円前後のコストが発生する。
ただし、これは「一時的な出費」だ。毎年の節税効果が200万円以上あるなら、2年以内に回収できる計算になる。「移転コストがかかるから所有型は損」という判断は、短期的な視点に過ぎる。

05ケーススタディ:2つのパターンで比較する
ケース①:年収1,500万円・物件2棟・賃料収入500万円(40代 総合商社勤務)
Aさんは給与所得が高く、不動産収入500万円が上乗せされることで、所得税の実効税率は50%近くになっている。
物件は2棟とも築10年以内で、今後も保有を続ける予定。相続対策はまだ先でいいと考えている。
→ サブリース方式が適している
物件を動かすコストをかけずに、法人を通じた所得分散で税率を引き下げられる。法人に家族(配偶者など)を役員として参加させ、役員報酬を支払うことで、さらに所得分散の効果が高まる。
法人への役員報酬は損金算入できるため(法人税法第34条)、法人の課税所得を圧縮しながら家族の手取りを増やせる。
ケース②:年収2,500万円・物件5棟・賃料収入2,000万円(50代 外資金融)
Bさんは不動産収入だけで2,000万円あり、個人課税のままでは年間1,000万円超の税負担が発生している。
子供が2人おり、10〜15年後の相続対策も視野に入れている。
→ 所有型方式が適している
毎年の節税効果が大きく、移転コストは数年で回収できる。法人株式を通じた相続税対策も同時に設計できるため、長期的な資産防衛の観点からも所有型が合理的だ。
法人の株式を少しずつ子供に贈与していく「株式の段階的移転」も選択肢に入ってくる。

06「税制の建前」から読む、今後の方向性
ここで少し視点を引いて、制度設計の意図を考えてみたい。
近年、税務当局は「個人事業の法人化による租税回避」に対して、監視の目を強めている。
2017年以降、同族会社を使った所得分散スキームへの規制強化が続いており、特に「実態のない役員報酬」や「過度なスプレッド設定」は否認リスクが高い。
国税庁が2023年に公表した「租税回避行為への対応状況」によると、資産管理会社を使った所得分散スキームへの調査件数は増加傾向にある。
だからこそ、「グレーゾーンを攻める」のではなく、制度の範囲内で堂々と最適化することが重要だ。
サブリース方式・所有型方式のどちらも、適正な賃料設定・役員報酬設定・議事録の整備といった「実態の裏付け」があれば、税務調査でも十分に対応できる。
逆に言えば、書類の整備や法人運営の実態がなければ、どちらの方式でも否認リスクは高まる。

07判断基準をまとめる:あなたはどちらを選ぶべきか
ここまでの内容を踏まえ、判断基準を整理する。
また、「サブリース方式から始めて、後から所有型に移行する」という段階的なアプローチも有効だ。
まず法人を設立してサブリース方式で運用し、法人の実績(決算書・確定申告)を積み上げる。その後、法人の信用力が高まった段階で物件を法人名義に移転する——という流れは、融資戦略の観点からも理にかなっている。
個人名義の物件を法人に売却する際は「時価」で行う必要があり、著しく低い価額での売却は「低廉譲渡」として課税される点に注意が必要だ(所得税法第59条参照)。

08見落としがちな「社会保険」との関係
法人化を検討する際に、税金と同じくらい重要なのが社会保険の扱いだ。
法人を設立して自分が役員になると、社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が原則として義務になる。
役員報酬が月30万円の場合、社会保険料の会社負担分は年間約50万円前後になる。これは法人の損金に算入できるが、キャッシュアウトとして計算に入れておく必要がある。
一方、将来受け取れる厚生年金の受給額が増えることや、傷病手当金・出産手当金の適用範囲が広がるというメリットもある。
社会保険料の負担を「コスト」と見るか「将来の受給権への投資」と見るかは、個人の状況によって異なる。少なくとも、法人化のシミュレーションには必ず社会保険料を含めて計算することを勧める。
| 役員報酬の月額 | 社会保険料(本人負担/月) | 法人負担/月 | 年間法人負担 |
|---|---|---|---|
| 20万円 | 約2.9万円 | 約2.9万円 | 約34.8万円 |
| 30万円 | 約4.3万円 | 約4.3万円 | 約51.6万円 |
| 50万円 | 約6.2万円 | 約6.2万円 | 約74.4万円 |
※ 2024年度の標準報酬月額・保険料率に基づく概算。地域・年齢によって異なる。
09まとめ
- —サブリース方式は、物件を動かさずに法人を通じた所得分散ができる。初期コストが低く、給与所得が高い現役世代の「まず試す」選択肢として有効。ただし相続対策の効果は限定的で、賃料設定の適正水準管理が必要。
- —所有型方式は、不動産収益が大きく・長期保有を前提とするケースで真価を発揮する。移転コストは発生するが、毎年の節税効果と相続税対策を合わせると中長期では圧倒的に有利になりやすい。
- —どちらの方式でも「実態の裏付け」が命綱。議事録・賃料根拠・役員報酬の適正設定を整えることが、税務調査への最大の備えになる。
- —「サブリースで始めて、所有型に移行する」という段階的戦略も合理的な選択肢だ。法人の実績を積み上げてから移行することで、融資面でも有利に動ける。
自分の年収・物件規模・相続対策の必要性という3つの軸で判断すれば、どちらが合っているかは自ずと見えてくる。
迷っているなら、まず不動産専門の税理士に「サブリース方式と所有型方式の比較シミュレーション」を依頼することを勧める。数字で見れば、答えは意外にシンプルだ。
TEKOでは、ハイキャリア層の資産形成・法人設立に関する情報を継続的に発信している。具体的な税務シミュレーションや専門家への相談窓口については、公式LINEから案内を受け取ってほしい。

※ 本記事の税務・法律に関する記述は、一般的な情報提供を目的としています。個別の税務判断は必ず税理士にご確認ください。
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