資産形成
不動産投資でサラリーマンが「駅徒歩1分」に執着する本当の理由
「少額から始められる」「与信が使える」——サラリーマン向け不動産投資の謳い文句はいつも同じだ。だが、実際に10年・20年単位で資産を積み上げた会社員投資家に共通するのは、そういった入口の話ではなく、「出口が見える物件しか買わない」という一点のこだわりである。都内主要駅徒歩1分の物件に絞って複数戸を保有する会社員の行動原理を軸に、なぜ立地選択が不動産投資の本質なのかを構造から解き明かす。

01「利回りが高い物件=良い投資」という思い込みを疑う
サラリーマン不動産投資の落とし穴は、入口の数字ではなく出口の不確実性にある。
不動産投資を検討し始めると、多くの人が最初に気にするのは「表面利回り」という数字だ。「利回り8%」という文字が目に入れば、購入価格と月次の家賃収入を素早く計算し、「これなら始められそうだ」という気になる。だが、この計算には致命的な抜けがある。
その物件は、10年後に売れるのか。
市場の一般的な傾向として、都心部において最寄り駅から徒歩15分超の区分マンションは、徒歩3分以内の物件と比較して売却に要する期間が大幅に長くなることが広く知られている。売却に時間がかかる期間中も、固定資産税・管理費・修繕積立金・ローン返済は止まらない。
問題はさらに根深いところにある。サラリーマンが不動産ローンを組む場合、その返済能力の根拠は給与収入だ。転職、独立、キャリアの変化——そういったライフイベントが「売れない物件を抱えた状態」で訪れると、金融機関の評価が一変する。融資の継続が困難になったり、売却を急ぐ羽目になったりする。
「少額で買えること」と「売りたいときに売れること」は、まったく別の話なのだ。
表面利回りに目を奪われるのは、行動経済学でいう「アンカリングバイアス」の典型例だ。最初に目に入った数字に引き摺られることで、流動性・空室リスク・修繕コストといった「見えないコスト」の評価が甘くなる。ハイキャリアで数字に強い人ほど、精緻なExcelシミュレーションを組みながら、計算の外にあるリスクを見落とすという逆説が起きやすい。
02駅徒歩1分へのこだわりの正体は「流動性への投資」
駅近の価格プレミアムは費用ではなく、売却確実性と賃料維持力という保険機能の対価だ。
都内主要駅(山手線・中央線・東急各線周辺)の徒歩1分以内の物件は、同エリアの徒歩10分超の物件と比較して購入価格が1.3〜1.8倍高い。「それでは利回りが下がるではないか」という反応は自然だが、この価格差を「費用」として捉えるか「保険料」として捉えるかで、投資判断の質がまったく変わってくる。
民間調査機関のデータによると、都心6区(千代田・中央・港・新宿・渋谷・文京区)における駅徒歩1〜3分の区分マンションの空室率は、同エリアの徒歩10分超の物件と比較して大幅に低い水準で推移しており、立地による需給格差は明確に表れている。
| 指標 | 駅徒歩1〜3分 | 駅徒歩10分超 |
|---|---|---|
| 空室率(都心6区・目安) | 低水準 | 高水準 |
| 売却に要する期間 | 短い傾向 | 長い傾向 |
| 10年後の賃料下落率(目安) | -5〜8% | -18〜25% |
| 築20年時の流動性評価 | 維持しやすい | 大幅に低下 |
10年単位で俯瞰すると、駅近物件の「割高な購入価格」は、賃料の維持力と売却の確実性という2つの形で着実に回収されている。さらに言えば、日本全体が人口減少局面に入っているなかで、立地の選別は今後いっそう重要になる。国立社会保障・人口問題研究所の推計(2023年)では、2050年時点で日本の人口は約1億500万人まで減少する一方、東京圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)への人口集中は当面続くとされている。つまり、「都心の駅近に人が集まる」という構造は、当面は変わらない。
逆にいえば、地方や郊外、あるいは都内でも駅から離れた物件は、需要の縮小リスクに直接さらされる。20〜30年のローンを組んで購入した物件が、返済の半ばで流動性を失うリスクを考えると、入口での割安感は大きな賭けになりうる。

03サラリーマンの与信が生む「レバレッジの構造」
銀行が貸したがるのはキャッシュではなく、給与収入の継続性という信用だ。
不動産投資における「与信」とは、金融機関が融資を判断するときの信用力を指す。自営業者やフリーランスと比較したとき、サラリーマン——特に大手企業・外資金融・医師・コンサル等——は圧倒的に高い評価を受ける。
なぜか。銀行が最も警戒するのは「返済が滞るリスク」だ。給与収入は——転職・解雇といったリスクは存在するにせよ——毎月一定額が入金される確率が最も高いキャッシュフローだ。この「継続性の担保」こそが、サラリーマンの与信の本質である。
日銀の金融政策決定会合資料(2025年3月)によると、投資用不動産ローンの変動金利は依然として1.0〜1.8%台で推移しており、消費者物価指数の上昇率(2024年平均2.8%)と比較すると実質金利がマイナスになる局面も存在している。適切に設計されたレバレッジは、このような環境では「合理的な選択」となりうる。
与信を活用した投資の構造を整理すると、以下のようになる。
ただし、与信の活用はあくまでも「手段」だ。与信を使って何を買うかが問われる。流動性の低い物件に与信を使えば、それは単なるリスク拡大になる。
※ 融資条件は金融機関・年収・勤務先・物件条件によって大きく異なります。詳細は各金融機関にご確認ください。

04少額スタートの現実解——収支設計のリアルな計算
頭金300〜500万円から参入できる都心区分ワンルームが、最もシンプルな入口だ。
では具体的に、いくらで何を買えばいいのか。都心区の区分ワンルームマンション(築10年前後・駅徒歩3分以内)を例に収支を試算してみよう。
月次キャッシュフロー「約1万2千円」という数字は地味に見えるかもしれない。だが、この計算には重要な要素が含まれていない。ローン返済の元本充当分だ。35年ローンの場合、10年経過時点で元本を500〜600万円程度返済し終えている計算になる。その間、入居者の家賃が返済の大半を担う。
整理すると、不動産投資の「本当のリターン」は3つの軸で成立する。
| リターンの軸 | 内容 | 目に見えやすさ |
|---|---|---|
| インカムゲイン | 月次の賃料収入(手残り) | 見えやすい |
| 元本積み立て | 毎月の返済で資産が積み上がる | 見えにくい |
| キャピタルゲイン | 売却時の価格差益(または損) | 出口まで不確定 |
表面利回りだけで投資判断をする人は、3つのうち1つしか見ていない。インカムゲインは重要だが、元本の積み上がりスピードと出口での売却価格を含めた「トータルリターン」で評価しなければ、正確な投資効果は測れない。

05ケーススタディ——総合商社勤務・42歳が3年で2棟目を取得した軌跡
Aさん(42歳・大手総合商社・年収1,800万円)が不動産投資に踏み切ったのは39歳のときだった。きっかけは「本業の年収が上がり続けることへの疑念」だったという。年収が高いほど所得税・住民税の負担も重く、手残りが思ったほど増えない感覚があった。
最初に購入したのは渋谷区・駅徒歩1分・築8年・22㎡のワンルームマンションだ。価格は2,950万円で、自己資金は295万円(10%)に抑え、残りを某信用金庫から年利1.35%(変動)でフルローン調達した。
「年収と会社名を出した瞬間、明らかに銀行の対応が変わりました。大手のブランドがそのまま与信になる構造を実感しました」とAさんは振り返る。
1棟目の購入から2年半後、Aさんはこの物件を売却せずに保有したまま、含み益と返済実績を評価材料に2棟目の融資審査を通過させた。2棟目は新宿区・駅徒歩2分・築5年・28㎡で、価格は3,600万円。自己資金は再び10%の360万円にとどめた。
Aさんが一貫して守ったのは「売れる理由が明確な物件しか買わない」という原則だ。内見の際に最初に確認するのは「この物件に、今すぐ買い手は何人いるか」という問いだという。「利回りが少し低くても、駅近で管理の良い物件は最終的に売却しやすい。その確信があれば保有し続けられる」とAさんは語る。
3年間の収支を合算すると、2戸合算の月次キャッシュフロー合計は約35,000円(手残りベース)、元本返済による資産積み立ては年間約90万円相当。投下した自己資金合計655万円に対する実効リターンは、キャピタルゲインを除いても年利換算で推定5〜7%の水準に達している。

06ハイキャリアが陥る「計算の罠」——行動経済学から見る不動産投資の盲点
高収入・高学歴であることが、むしろ投資判断の歪みを生むことがある。
「不動産投資で大きな失敗をした」という話を聞くと、情報不足や詐欺的な業者が原因のケースが多いと思われがちだ。だが、ハイキャリア層の失敗は異なるパターンをたどることが多い。それは「情報過多による過信」と「損失確定への心理的抵抗」の組み合わせだ。
過信バイアス:Excelシミュレーションを緻密に組めば组めるほど、「計算が合っている=投資判断が正しい」という錯覚が生まれやすい。しかし不動産投資における重要リスク——賃借人の質、周辺の再開発計画の変更、金利の急上昇、自然災害リスク——はいずれも数式に入力されることがない。モデルが正確でも、モデルが捉えていないリスクで損失が発生する。
損失回避バイアス:カーネマン&トヴェルスキーのプロスペクト理論によれば、人間は損失をゲインの約2倍の重みで感じる。これは高所得・高学歴のビジネスパーソンも例外ではない。含み損が出た物件を「まだ戻るはず」と保有し続け、状況が悪化してから慌てて売却するというパターンは、知識・経験・収入に関係なく発生する。
この2つのバイアスへの処方箋は「出口の事前設計」だ。購入前に「この物件を何年後に、おおよそいくらで、どんな買い手に売るか」を具体的に描いておく。もし明確な答えが出ないなら、購入を見送る。
駅徒歩1分へのこだわりは、このバイアス対策と不可分だ。「売れる理由が明確な物件」を選ぶことで、意思決定の基準が「感覚的な期待」から「構造的な確信」に変わる。保有期間中のメンタルの安定にも、これは大きく寄与する。

07動き出す前に確認する3つのチェック
自己資金・融資力・出口シナリオの3点が揃ってから動く。それだけで大半の失敗は防げる。
不動産投資を具体化する前に、以下のチェックリストで自身の状態を確認しておこう。
- ✓自己資金は物件価格の10〜20%以上を現金で確保している
- ✓勤務先・年収・勤続年数が融資審査の基準を満たせる水準にある
- ✓購入候補物件の「10年後の売却シナリオ」を具体的に描けている
- 変動金利が1.0〜1.5%上昇した際の収支シミュレーションを済ませた
- 購入検討エリアの人口動態・再開発計画・競合物件数を調査した
- 管理会社の入居者審査基準・対応品質を複数社比較した
さらに、投資判断の直前に自分に問うべき3つの問いがある。
この3問に「Yes」と答えられる物件のみを対象にする。このシンプルなルールを守るだけで、不動産投資の失敗確率は大幅に下がる。
※ 税務上の扱い(不動産所得の損益通算・減価償却等)については税理士への確認を推奨します。
※ 本記事のシミュレーションは一例であり、将来の運用成果を保証するものではありません。実際の投資判断はご自身の責任において行ってください。

08まとめ:「何を買うか」ではなく「なぜそこを買うか」という思考軸
- —駅徒歩1分へのこだわりは戦略的判断。価格プレミアムは流動性と賃料維持力という保険の対価であり、10年単位で回収される。
- —サラリーマンの与信は最強の入口だが、使う先を間違えれば単なるリスク拡大になる。与信の活用と物件の質は常にセットで考える。
- —表面利回りより重要な3軸は「インカムゲイン×元本積み立て×売却蓋然性」だ。利回りだけで投資判断をしない。
- —ハイキャリアほど過信バイアスに注意。計算モデルが精緻なほど、モデルの外にあるリスクへの感度が鈍くなる。出口を事前に設計することがリスク管理の本質だ。
人口減少が続く日本で、不動産を資産として機能させられる立地はじわじわと絞られている。今後ますます「どこを買うか」の解像度が問われる時代になるだろう。
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