標準報酬月額の上限引き上げで年11万円負担増の全貌

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TEKO編集部

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「また社会保険料が上がる」——そう聞いても、忙しいハイキャリア層ほど「まあ仕方ない」で流してしまいがちだ。

でも今回は少し違う。2025年に成立した年金制度改革関連法により、標準報酬月額の上限が引き上げられた。対象になる年収帯の会社員は、年間で最大約11万円の社会保険料負担増となる。

この記事では、改正の中身と影響額の計算、そして「知っていれば使える」制度上の対抗手段を具体的に解説する。

01今回の改正、何が変わったのか

標準報酬月額の上限が65万円から75万円(月額)に引き上げられた。等級数は32等級から35等級へ拡大する。

標準報酬月額の上限引き上げで年11万円負担増の全貌 - 国会議事堂の外観と青空、改革を象徴する重厚感のある構図

厚生労働省の発表(2025年)によると、改正の施行は2026年4月を予定している。対象は厚生年金の被保険者で、報酬月額が現行の上限(65万円)を超えるすべての会社員だ。

「標準報酬月額」とは何か、改めて整理しておこう。

毎月の給与や賞与をもとに、社会保険料の計算に使う「みなし月収」のこと。実際の月給ではなく、1等級から32等級(改正後は35等級)までの区分に当てはめて計算される。

現行制度では、月給が65万円を超えていても、社会保険料の計算は「65万円」として頭打ちになっていた。今回の改正でその天井が75万円に上がる。つまり、これまで「保険料計算外」だった月給65万〜75万円の部分に、新たに保険料がかかるようになる

0211万円の内訳を正確に理解する

負担増の最大値は年間約11万円。ただし全員が同額ではなく、現在の月収によって変わる。

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厚生年金の保険料率は現在18.3%(労使折半)。本人負担は9.15%だ。

改正前後の上限差は月額で10万円65万円75万円)。これに保険料率(本人負担9.15%)をかけると:

前提条件
前提: 標準報酬月額が現行上限(65万円)を超えている会社員
計算式
計算: 月額負担増 = 10万円 × 9.15% = 9,150円
年間負担増 = 9,150円 × 12ヶ月 = 10万9,800円
結果
結果: 年間で約11万円の社会保険料負担増(本人負担分のみ。会社負担も同額増加)

「年11万円」という数字はこの計算から来ている。

ただし注意が必要なのは、これが上限に達する人の最大値だという点だ。たとえば現在の月収が68万円なら、差分は3万円(68万→75万)なので、年間負担増は約3万3,000円にとどまる。

現在の標準報酬月額 / 改正後の適用上限 / 月額負担増(本人) / 年間負担増 比較
現在の標準報酬月額 改正後の適用上限 月額負担増(本人) 年間負担増
65万円以下 変化なし 0円 0円
68万円 75万円 約2,750円 3.3万円
71万円 75万円 約5,500円 6.6万円
75万円以上 75万円(上限) 約9,150円 11万円
65万円以下
改正後の適用上限変化なし
月額負担増(本人)0円
年間負担増0円
68万円
改正後の適用上限75万円
月額負担増(本人)約2,750円
年間負担増3.3万円
71万円
改正後の適用上限75万円
月額負担増(本人)約5,500円
年間負担増6.6万円
75万円以上
改正後の適用上限75万円(上限)
月額負担増(本人)約9,150円
年間負担増11万円

※標準報酬月額の区分は実際の等級表に基づき概算。

ここで見落としがちなのが会社側の負担増だ。社会保険料は労使折半なので、会社も同額の負担増を負う。人件費コストが上がることで、特に外資系や中小規模の企業では昇給・賞与への間接的な影響が出る可能性もある。

03そもそもなぜ今、上限を引き上げるのか

制度の「建前」は将来の年金給付の充実。だが「本音」は高所得層からの保険料収入拡大にある。

標準報酬月額の上限引き上げで年11万円負担増の全貌 - 日本の都市夜景を背景に、スーツ姿のビジネスパーソンが窓の外を見ている後ろ姿

厚生労働省の審議会資料(社会保障審議会年金部会、2024年)によると、今回の改正の公式な目的は「高所得者の老後給付の適正化と制度の持続可能性の確保」とされている。

建前としては筋が通っている。保険料を多く払えば、将来受け取る年金も増える。現行制度では上限で頭打ちになっていたため、「高所得者は保険料を相対的に少なく払い、給付も低い」という歪みがあった。

ただし、冷静に計算すると話は変わってくる。

厚生年金の給付計算式は複雑だが、標準報酬月額の上限引き上げによって増える年金額は、月数千円程度にとどまる見込みだ(試算は個人の加入期間や報酬歴による)。一方、社会保険料の負担増は年11万円となる。「払う額」と「もらえる額の増分」は釣り合わない

これは制度設計の問題ではなく、社会保険の本質的な性格から来ている。厚生年金は「貯蓄」ではなく「世代間の仕送り」だ。高所得者が多く払う分は、現役世代の高齢者への給付に充てられる。

つまり今回の改正は、財政上の必要性から高所得層に追加的な負担を求める政策調整と読むのが正確だろう。

04誰が対象になるのか

標準報酬月額が現行上限(65万円)を超えている会社員が対象。年収ベースでは概ね1,200万円超が目安になる。

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「標準報酬月額65万円」は月給ベースの話だが、年収に換算するとどのくらいか。

賞与も含めた年収で考えると、月給65万円(年収780万円相当)に加えて賞与が乗ってくるケースが多い。賞与は別途「標準賞与額」として計算されるため、単純換算は難しいが、目安として年収1,200万円前後から影響が出始めると考えると実態に近い。

総合商社・外資金融・大手コンサル・勤務医など、このコラムの読者層の多くが対象になる可能性が高い。

なお、改正の対象は厚生年金の被保険者(会社員・公務員)に限られる。フリーランスや個人事業主が加入する国民年金には今回の変更は適用されない。

また、70歳以上の継続雇用者は厚生年金の被保険者ではないため対象外。役職定年後の再雇用などで報酬が下がっているケースも、実際の標準報酬月額が65万円を下回れば影響を受けない。

05ケーススタディ:外資コンサル勤務・42歳の場合

標準報酬月額の上限引き上げで年11万円負担増の全貌 - カフェのテラス席でノートパソコンを開き、コーヒーを手に仕事をする40代のビジネスパーソン

Aさん(42歳・外資系コンサルティング会社・年収1,800万円

月給は130万円(賞与別)。現在の標準報酬月額は上限の65万円で頭打ちになっている。

2026年4月の改正施行後、標準報酬月額は75万円(新上限)に引き上げられる。月の保険料負担は9,150円増加し、年間では11万円の社会保険料負担増となる見込みだ。

Aさんの場合、すでに所得税・住民税の合算税率が高い水準にある(課税所得に応じた所得税率33%+住民税10%)。そこに社会保険料の追加負担が重なる。

「手取りを増やす」方向での対応として、Aさんが検討できる制度上の選択肢を次のセクションで整理する。

06手取り減少への「制度的な対抗手段」

社会保険料そのものを減らすことはできないが、税と社会保険の相互関係を活用して実質的な手取りを守る方法はある。

負担増を嘆くだけでは何も変わらない。制度を知っている人が使える手段を具体的に見ていこう。

1
iDeCoの掛金上限を最大化する
会社員(企業型DCなし)の場合、月2万3,000円まで全額所得控除。年収1,800万円の税率帯では、年間掛金27.6万円が所得控除→実質的な節税額は約12〜14万円。社会保険料増分を上回る節税効果が得られる。
2
企業型DCの活用状況を確認する
勤務先が企業型確定拠出年金を導入している場合、マッチング拠出の上限まで活用できているか確認する。掛金は全額所得控除。
3
小規模企業共済・法人化の検討
副業収入がある場合、法人化によって役員報酬を適切に設定し、社会保険料の計算ベースを最適化することができる。ただし税理士との相談が必須。
4
特定支出控除の活用
会社員でも、職務上の支出(資格取得費・研修費・転勤費用等)が給与所得控除の2分の1を超えれば、超過分を控除できる。領収書管理が条件。
5
配偶者の就労状況を見直す
配偶者が扶養内で働いている場合、世帯全体の社会保険・税負担の最適化を再検討する余地がある。

ここで特に注目したいのが、iDeCoの「所得税節税効果」と「社会保険料の関係」だ。

iDeCoの掛金は社会保険料の計算には影響しない(標準報酬月額はiDeCo前の報酬で決まる)。しかし所得税・住民税の節税効果は得られる。

年収1,800万円のAさんがiDeCoを月2万3,000円(年27.6万円)拠出した場合:

前提条件
前提: 年収1,800万円、所得税率33%(課税所得に基づく限界税率)、住民税10%
計算式
計算: 節税額 = 27.6万円 × (33% + 10%) = 27.6万円 × 43% = 約11.9万円
結果
結果: 年間約12万円の節税効果が見込まれる。社会保険料増分(約11万円)を上回る手取り改善が期待できる

もちろんiDeCoは60歳まで引き出せないという制約がある。「今の手取り」と「将来の受取額」のバランスを考えた上で判断する必要があるが、高所得者ほど節税効果が大きいのは事実だ。

また、社会保険料が増加した場合、その全額が社会保険料控除の対象となるため、所得税・住民税が軽減される効果もある。実際の手取り減少額は社会保険料の増加額(約11万円)よりも少なくなる点にも留意しておきたい。

※税務判断は税理士にご確認ください。

07一歩引いて見ると:社会保険料は「第二の税金」になっている

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所得税には累進課税があり、高所得者ほど税率が高い。しかし社会保険料には長らく「上限」があり、ある一定の収入を超えると実質的な負担率が下がる構造になっていた。

今回の改正はその「上限」を引き上げることで、社会保険料の実質的な累進性を強化する方向への一歩だ。

日本の財政状況を踏まえると、この方向性は今後も続く可能性が高い。実際、社会保障審議会の議論では「上限のさらなる見直し」についても中長期的な検討課題として挙げられている。

つまり今回の改正は「一回限りの負担増」ではなく、高所得者の社会保険料負担が段階的に引き上げられていくトレンドの始まりと捉えた方がいい。

パーソル総合研究所の調査(2024年)によると、副業を行う正社員の比率は約10%に達している。副業・法人化・資産運用など、「給与所得以外の収入源」を持つことへの関心が高まっているのは、こうした構造的な負担増への対応という側面もある。

制度の変化は止められない。だからこそ、制度設計の方向性を読んで、先回りして自分の資産形成の構造を組み直すことが、ハイキャリア層にとって今最も重要な財務判断の一つになっている。

08見落としがちな注意点

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施行は2026年4月。今すぐ手取りが減るわけではない。

改正法は2025年に成立したが、施行は2026年4月の予定だ。今年度の源泉徴収や社会保険料には影響しない。ただし、2026年の給与計算に向けて会社の人事・経理部門は対応準備を進めているはずで、年末調整や翌年の給与明細に変化が現れる。

賞与への影響も別途確認が必要。

標準報酬月額とは別に、賞与には「標準賞与額」という仕組みがある。賞与の社会保険料計算には現在「1回の賞与につき150万円」という上限があり、今回の改正ではこの上限は変更されない。月給部分の上限引き上げが主な影響範囲だ。

「社会保険料が増える」ことと「損をする」ことは別。

社会保険料を多く払えば、将来の年金受給額もわずかに増える。「損か得か」の判断は、個人の健康状態・就労継続年数・投資リターン等との比較が必要で、単純に「損」とは言い切れない。ただし、前述の通り負担増に対して給付増が見合わない構造は変わらない。

扶養認定基準との混同に注意。

「標準報酬月額の上限引き上げ」と「いわゆる130万円の壁(扶養認定基準)」は別の話だ。混同して誤った判断をしないよう注意してほしい。

09まとめ

  • 2026年4月から標準報酬月額の上限が65万円75万円に引き上げ。月収が65万円を超える会社員は年間最大11万円の社会保険料負担増となる見込み
  • 対象は年収1,200万円超の会社員が中心。総合商社・外資金融・コンサル・勤務医など、ハイキャリア層の多くが直撃を受ける
  • 社会保険料そのものは減らせないが、iDeCoの最大活用(年収1,800万円なら年約12万円の節税効果が見込まれる)で実質的な手取りを守ることが期待できる
  • 今回の改正は「高所得者の社会保険料負担を段階的に強化する」トレンドの入り口。制度の方向性を読んだ上で、資産形成の構造を見直すタイミングだ

制度の細部を把握していると、同じ収入でも手元に残るお金が変わってくる。

iDeCoの掛金設定・企業型DCの活用状況・法人化の検討など、自分の状況に合った対応策が気になる方は、ぜひTEKO公式LINEで個別の状況を相談してみてほしい。専門家との対話を通じて、制度改正を「損するイベント」から「見直しの好機」に変えることができる。

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※本記事は情報提供を目的としており、個別具体的な税務判断や手続きについては税理士等の専門家にご確認ください。

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